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2017年05月17日大日乃光第2175号
「ちかいの詞」を信仰生活の〝憲法〟にしよう

緊迫する国際情勢に日々、高まる憲法論議
 
今日(五月三日)は憲法公布から七十周年です。近年は憲法に関して様々な議論があります。
 
そんな中で昔はほとんど知られていなかったことがあります。それは日本に主権がなかった時代、国際社会に復帰する前に進駐軍の支配の下でこの憲法が出来たという事です。この事は近年になって多くの人びとに解ってきた事です。
 
特に十三年前までは、五月三日に奥之院で「大梵鐘まつり」を行っていました。そちらの方に気持ちが向いており、当時の私はこの時期に憲法を考えたりすることがあまり出来ていませんでした。
 
国家の基本法が憲法です。これは「主権在民」、「基本的人権の尊重」、「平和主義」と非常に素晴らしい理念が込められていると思います。しかし近年の国際情勢の激変の中で、国民の関心が高まってきています。
 
それは北朝鮮の核実験やミサイルの発射実験で、差し迫った危機が迫っているからです。発射からわずか十分で日本に着弾します。そういう点もあり、憲法についての関心が高まっていると思います。
 
佛教者としての生きる規範とは?
 
昔、子供の詩コンクールの開始当時から顧問を務めて頂き、一時期は審査委員長まで務めて頂いた無着成恭先生が、こういう事を仰ったことがあります「佛教者は、特にお坊さんは憲法に基づいて生きるのではなく、佛法に基づいて生きなければならない」
 
まさにそうだなーと関心した事を覚えています。国民としての生き方は憲法に規定されていて、日本人は天皇陛下をはじめ、憲法を守るという事はとても大事な事となっていますけれど、僧侶として、また佛教者として生きるときには、佛法に基づいて生きるんだ。
そういったことを仰っておられました。
 
この佛法に基づいて生きるという事は、どういうことなのかを色々と考えてみたことがあります。それを蓮華院の信仰の形に引き寄せてみるとき、「ちかいの詞」にありますように、両親や友達、先生そしてご先祖様に対し感謝をするということ。恩返しをする気持ちをしっかり生活の中で自分に言い聞かせながら、そして未来に繋いでいく事だと思います。
 
二十七年間孝養の心を育んできた「子供の詩コンクール」
 
そういった中で、今から二十七年前に「親を大切にする子供を育てる会」という会を先代が作られました。
 
これはどういうことかというと、全ての生き物は親が子供を育てるのに非常に愛情を注ぎます。これは一種の本能と言ってもいいわけです。ところが例外的に、親を大切にする「親孝行」の心を持つのは人間だけです。他の動物にはそのような感情はありません。
 
親と子が一緒に生活する時期は、人間が一番長いのだと思います。そういう中にあって、親を大切にする心を育てるということがいかに大事か。もっと長いスパンで見ると、我々の地域の伝統や文化、歴史を大事にし、また民族の持つ伝統文化、そして歴史を大事にする心にまで繋がっていきます。
 
過去に思いを巡らすことが出来、また未来に対しての思いを持ち期待したりするのは人間だけです。時間の観念は人間にしかありません。動物たちは、その日その日を精一杯生きています。ですから過去の事、それを未来にどう繋ぐかまでは必要がありません。
 
そういった中にあって、「子供の詩コンクール」は平成二年から始めて、今年で二十八回目を迎えてます。これに信者の皆さんがあまり参加されていないのが、少し残念な事です。
 
ここ最近では、五千から六千編の応募があります。これを三十年近く開催してきまして、のべ十二万人以上の子供たちが参加してきたことになります。これは大変すばらしいことです。
 
憲法以上に大切な家庭での倫理道徳観の醸成
 
これが実現できたのは、蓮華院の信仰の中にこれを取り込んでいこうという先代の思いで、左記の「ちかいの詞」の中にある通り、先祖や先生や友達、地域やそしてこの街、この村、この山河に感謝して恩返しをしようという考え方です。
 
こういう考え方は憲法にはありません。我々は憲法以上に「ちかいの詞」の精神を、日常生活でどう活かしていくか、ということがとても大事です。国家的な国防とか外交は国の仕事ですから私達個人個人の生活とは直接関係ありませんが、かつては「教育勅語」に人間としての倫理道徳が書いてありました。
 
私も読み直してみました。色んな意見があります。しかし先祖や友達、地域、そして日本のこの山河、この大地に感謝して恩返ししようということは入っていません。ただ一旦危急存亡の秋は、公に対し自分自身の命を投げ出して働くという、国家が危なくなったらそれくらいの気持ちで皆さん役割を果たして下さい、とあります。
 
これが恩返しになるかどうか。その一部かもしれませんが、ほとんどのマスコミの論調や、多くの人の意見では、こういう事が入っているからそれがけしからんと言うのです。結局、国民は国家の為の存在であり、これは「主権在民」に反するというのです。
 
今の憲法の思想に反する。だから一つの資料として、こういうのがかつてありましたよと学校で教えるのは良いけれども、これを暗唱させるとかそれを全面肯定することは出来ないというのが、今の正式な政府答弁になっていると思います。
 
「教育勅語」に書された本当の理念と大切な役割
 
それよりも、本当はおとうさんおかあさんにありがとうと言って感謝しましょうと、これは「教育勅語」にも書いてあります。まず一番最初に出てくるのが親に対して孝養を尽くす、兄弟は相助け、友達はお互いに信じ合い、夫婦はお互いに信頼し睦み合う。
 
先代の世代はおそらく「教育勅語」を全部暗記していたと思います。ところが戦争が激しくなるもっと前の時代には、記念日に校長先生が読み上げるだけだったそうです。みんなに暗記させようとまではしていなかったそうです。

それはともかく、改定される前の教育基本法では補えない、教育に関する理念が「教育勅語」には示されていたのです。七十数年前には必要だったわけです。
 
そういったわけで、私たちは家族全員が「ちかいの詞」をいつも意識し、当然家族全員が暗記し暗唱してもらいたい。この言葉自体を具体的に実践して欲しい。そしてそれを子供たちに自らの生活の中で伝えて頂きたいと思います。
 
「内観」と「子供の詩コンクール」で  一貫してお寺が伝えたい事
 
ちょうど今、一日から七日まで、八人の方が集中内観を行っています。この内観で一番良いところは、例えば先生とか親から「あなたはこうしなさい」とか「あなたはこういうところはこうでしょ」と言われて、「あ、そうか」でなくて、自分自身で過去を振り返る中で、お父さんお母さんの愛情や多くの方々の支えがいかに大きかったかを自分自身で気づく所です。それに本当に気づくのに、普通の大人でも一週間はかかるのです。

それを、「最も身近なお父さんお母さんに対してありがたいなという気持ちを持ちなさい」と私が百回言うよりも、自分のお父さんお母さんを見つめてそれを詩にすることが、自分自身を振り返ったり、「あーお父さん、お母さんはありがたいんだなー」という思いを起こさせ、親を大切にする気持ちが自然と出来てくるのです。
 
人間は本来、親を大切にする心は本性のなかに備わっていると私は感じます。これまで三十年近くの作品の中で非常に印象的な詩があります。

耳の聴こえない子供さんが、私に耳の障害を与えてくれてありがとうと書きました。なぜならそのことによって、自分はお父さんやお母さんの愛情を普通の子供たち以上に感じる事が出来るからと書いていました。
 
またお母さんがすでに亡くなっていて先生からお母さんについて詩を書いて下さいと言われ、普通の人がお母さんを見つめる以上に亡くなる前のお母さんの思い出としっかり向き合ってみたという詩もありました。
 
日々、「和顔施」実践の七年
 
中には筋ジストロフィーの少年が、入院中にお母さんが毎週見舞いに来てくれる時の弾むような気持ちを素直に書いています。その青年は、最近二冊目の詩集を出しました。随筆集も二冊、『生きるための遺書』を書いています。その人は第一回目の子供の詩コンクールで最優秀賞を受賞した藤本猛夫君です。
 
私自身も彼に啓発されるものがいくつかありました。しかし最も影響を受けて実行しているのは、私の妻でしょう。悲しい時や辛い時でも自分は笑うことに努めようと、彼女は決めたのです。
 
障害の表現としていつも笑っているのではないかと思っていましたけど、人は悲しい時、辛い時ほど神佛にどうかお願い致しますと手を合わせます。と同時に自分から明るいものを周りに発散していこうと、そういう事が周りの人々への恩返しに集約されるのではないかと思います。
 
七年前に妻と一緒に藤本君と会った時、彼が「私は笑うために生きています。私が笑うと周りの人達が幸福になるからです」と言っていたその事を、妻は日々実行しているのです。
 
大切なのは努力と精進の継続
 
何かをもらったからお返しするのではなく、何も頂いていなくても自分が先にお返しする事はできないか、という気持ちを実行し続ける事、行動し続ける事、それが人にとっていかに大事な事か、信仰生活でいかに大事かという事を、今しみじみ感じております。
 
その意味で「ちかいの詞」の「恩返しのできる人間になるために、日々努力、精進いたします」というのは、私たちに生きるための方向を示しています。憲法とは違い、私達に身近な生きる指針として、この「ちかいの詞」を一緒に唱えながら味わって頂けたら有り難いと思います。合掌




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