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大日乃光






大日乃光

2017年09月29日大日乃光第2183号
「御本尊様のお計らいで進む多宝塔の荘厳」

九月二十一日付けの『大日乃光』前号で、真言密教の『大日経』の中の「三句の法門」、

菩提をもって因と為し
大悲をもって根と為し
方便をもって究竟と為す

というとても大事な三つの句についてお伝えしました。簡単に言えば、佛様が人びとに働きかける時の三つの要素と、私達が佛様に近づいていく時の三つの手だてについてのお話です。
 
さて、この中の三句目に出てくる方便は、絶妙な「手だて」の意味であり、その人に見合う具体的な手だての事とお伝えしました。
 
護摩祈祷という手だて、日々の色々な祈願という手だて、〝お尋ね〟という手だて、法話という手だて…これらは全て方便です。菩提心を心の中心にしっかり持ち、大慈大悲の心を根っことすれば、日々の活動そのものが、全て究極の手だてになるという意味でした。
 
以上を前回お伝えしましたが、先日、その方便の具体的な例とも言うべき体験をしたのでお伝えします。
 
発端となった「現代の侍」との出会い
 
年に二回、関西支部布教会を京都で行なっています。今年の秋は九月十日でした。九月九日は重陽の節句に当たりますが、いつもは昼過ぎに寺を出て、前日の内に京都に着けばよいのですが、今回は少し早く発ちました。
 
倉敷の高橋秀画伯より、来年の五月十二日に落慶する多宝塔内を荘厳する絵画がほぼ完成したという知らせを受けていたので、その作品を拝見するためでした。同行したプロのカメラマンに写真をたくさん撮って頂きました。その一部を『大日乃光』正月号のカラー版に何枚か掲載出来ればと思っています。
 
その高橋画伯との巡り会いとはそもそも何だったのかということを、かいつまんでお話しします。高橋画伯とは、二十一年前のちょうど今の時期に運命的に出会いました。
 
二十一年前、イタリア日本大使館の主催によって、イタリアで二十年以上活躍している様々な分野のアーティストの「イタリアの七人展」という展覧会が開催されました。それは大変な好評を博したそうです。そこで日本国内でも開催したいということで民間に協力を呼びかけ、私の友人がスポンサーになったのです。
 
そして岡山県倉敷の大原美術館で、第一回目を開催する事に決まり、友人から懇親会への出席を誘われ、私はなぜか二つ返事で了承したのです。その一年半前まで私は三年間籠山をしていましたから、ほとんど外に出ていなかったんです。籠山を終えてしばらくたってこの話がきたので、何か佛様からのお誘いのように感じられました。
 
すると会場のまさに中心人物として、この高橋秀という方が居られたのです。会った瞬間〝うわーこの人は凄い人だ。現代の侍だ〟と感じたのです。それ以来、夫婦ぐるみのお付き合いが続きました。日本に帰国された高橋画伯の作品の展示即売会が、岡山の天満屋というデパートで何回か開催され、妻と共に行きました。それら作品を見るたびに、思いが募って行ったのです。
 
三年越しに実現した御霊示
 
少し話が戻りますが、出会いの数年前には五重塔をチベット曼荼羅と十二枚のチベット佛画(タンカ)で荘厳しました。これは世界の佛教美術の最先端であり、もうこれ以上のものはないと言っても過言ではありません。
 
ですから、多宝塔がその二番煎じにならないように、全く違う発想で荘厳するにはどうしたらよいでしょうか、どうか教えてくださいと、一所懸命お参りを続けていました。
すると六年前に『高橋秀画伯に頼め』という御霊示を頂き、早速お願いに伺ったのです。
高橋画伯はその当時八十一才でした。そこでこの話を切り出すと、開口一番「うん。まだ生きとったらね!!」と言われました。
 
その頃、画伯は三つの大きな仕事を抱えておられたので、とてもすぐには取り掛かれないという事情があったのでした。しかし私は断られたわけではないと信じ、それから会う度に何度もお願いし、ついに三年前に「なんとかしましょう」と了承して頂きました。
 
それ以来、私は高橋ご夫妻の健康祈願を毎朝の祈祷の中で拝んでいます。今年でご本人は御年八十七才、奥様は九十二才になられますが、お陰様でお元気なご様子です。
 
多宝塔に結実する壮大な「方便」
 
そして九月九日に伺った高橋画伯のアトリエにあった五幅の作品は、私の想像通りのすばらしいものでした。
依頼する時に地・水・火・風・空という要素(五大)をそれぞれ表現してほしいというテーマでお願いしていました。これは大日如来を形作る要素としての地・水・火・風・空です。その要素を多宝塔内に抽象的に表現して頂きたいとお願いしてあったのです。
 
絵が発散するエネルギーには尋常ならざるものを感じました。この作品が発するエネルギーに触れて、皇円大菩薩様の御指示は間違いなかったと確信しました。
 
その時、天満屋の美術部長が来られて、「ぜひお願いがあります」と話を切り出されました。「これだけ素晴らしい作品を数日前に拝見し、私は物凄く感激しています。ところが完成したらこのまま熊本に運ばれて、岡山県民の目に触れる機会がありません。それではあまりに惜しいので、本社に交渉して何とか会場を一日空けて、作品を展示したいと思っています。いかがでしょうか?ぜひよろしくお願いします」と言われたのです。
 
商業的には全く利益にならない今回の展示をそこまで熱心に依頼されて、私としてはその志に感動して、一も二もなく快諾しました。こうして天満屋で十月十日に一日限定で展示会が催される運びとなり、その事前告知として、高橋画伯と私に一筆依頼されたので、次の文章をしたためました。
 
「運命の邂逅から未来への遺産へ」
 
それは、21年前の倉敷「菜の花」での衝撃的な高橋秀画伯との巡り会いから始まった。出会うなり「この方はただ者ではない。さながら現代の侍だ!」
おおらかな中にも古武士のような矜持を内に秘めた人柄にすっかり惚れ込んでしまった。
 
以来個人的な交流に加え、数度の天満屋での展示会や沙美海岸のアトリエに何度も足を運ぶ内に、その作品が持つ宇宙的な広がりや生命力に完全に魅了されていった。
 
高橋画伯に巡り合う一年前に、当寺では木造の五重塔を落慶していた。その塔内は世界最高レベルの五幅のチベット曼荼羅と12枚のタンカ(チベット仏画)で荘厳した。その後続けて6年前には南大門を再建し、引き続き密教建築の精華と言える多宝塔を建立している。(落慶法要は来年5月12日)
 
先の五重塔では、現代得られる密教美術の最高峰を駆使して内部の荘厳を調えているので、今回の多宝塔ではどうすべきかを御本尊に至心に祈る日々が続いた。そんな中で『高橋画伯に未来へのメッセージとなる作品を依頼せよ!』との啓示を得た。
 
早速高橋画伯のアトリエに伺いその旨を伝えると、画伯は「うん。まだ生きとったらね!」と承諾とも断りとも取れる第一声であった。以来三年間、先の依頼を続けた。三顧の礼ならぬ三年の礼がようやく叶い、足掛け六年目にして今日を迎えたのである。
 
来年落慶する多宝塔は今後五百年、千年と建ち続け、その立ち姿と共に地・水・火・風・空を象徴する本作品が数億人、数十億人の未来の人びとに無限の贈り物を伝えて行くに違いない。感慨無量!
 
本日この作品をご覧になる全ての人々が、明日への勇気と意欲を得られるに違いない。御本尊皇円大菩薩の慧眼と不思議な邂逅に只々感謝である。合掌
真言律宗 別格本山 蓮華院誕生寺
中興三世 権大僧正 川原英照
 
一日だけの展示会の事前告知として、この文章が掲載されます。高橋秀画伯の作品は、それだけ人を動かす力を持つという事です。
 
この作品は御本尊皇円大菩薩様のお導きによって、多宝塔に納まります。それは言ってみれば、多宝塔を拝む人達に五智如来の持つメッセージと共に、芸術作品という形で、時代を超えた永遠のテーマと言えるような宇宙の調和や厳しい意志力、真剣に努力する熱烈な思いや、人びとを安らかに包み込むような慈悲の心などの良き情念を、五百年、千年と後世の人びとに発信し続けるのです。まさにこれは一つの究極的な方便であると感じました。
 
御心に適うための三つの心構え
 
皆さん達もそれぞれが自分の仕事をする中で、精一杯最大限の努力をしていけば、それ自体が実は佛様のお働きの一部になるのです。例えば美容師さんは仕事を通じて女性に潤いや自信や前向きな気持ちを与えたり、見る人に爽やかな心になって頂く。料理人は料理を通じて人を元気にして、明日の活力を与える。家庭の主婦は家族の健康をしっかり守る。そこから光が少しずつ周りに広がって行く。
 
私達はそれぞれの全ての仕事、全ての働きに「向上心」と「人の痛みを感じる大悲の心」の二つの心を込めて日々努力すれば、それぞれがそのまま、まさに皇円大菩薩様の御心になるのです。
 
その御心を自分の心として励み、努力する。昨日よりは明日、明日よりは明後日。たとえ三歩進んで二歩下がっても、またそこから盛り返し、もう一歩前に進んで行く。そういう菩提心、向上心で励みたいものです。
 
そしてそれだけでは駄目で、人を押しのけてでもやるぞという気持ちではなく、周りに対する思いやりの気持ち。自分が何か役に立てることはないか、そういう気持ちを持って進むことが、実はこの「菩提心を因と為し、大悲を根と為し、方便を究竟と為す」という事なのです。
 
開山上人様の御薫陶に導かれて
 
私はこの言葉に四十数年前に出合い、そして蓮華院に帰ってきて、開山上人様からご指示を受け、色んな作業をさせて頂きました。
一時期は嫌気がさして、なぜこんなことをしなければいけないのか、もっと本格的な修行をさせて欲しいと望んだ事もありました。その頃二千本もの接ぎ木をした事もありましたが、その時もなぜこんなことをやっているのかと思う事がありました。
 
しかしそれを真剣にやり続けて行く内に、無心になってお経を唱えている時、また瞑想している時、八千枚護摩行を修している時と同じ様な気持になる事が出来ました。あーこの事がまさに《方便究竟》、方便こそ究極の手立てなのだなと、具体的な作業や日々の努めに邁進したものです。
 
日常生活で実践する「三句の法門」
 
皆さん達はここでお参りをして、皇円大菩薩様から霊的な充電を頂かれます。そのお分かち頂いた御霊力を元にそれぞれの職場、それぞれの家庭などで佛様から頂いた向上心、そして人へのやさしさを日々の生活の中で発揮して下さい。それは皆さん達にとって、この「三句の法門」を生活に活かす日々の実践となるのです。
 
同じことを行なっていても、この言葉を意識すれば、行動の質が変わってくる。そしてそこに魂が込もる。そういう思いで日々の営みを続けて頂ければ、運勢が開けて来るに違いありません。 合掌




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