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大日乃光






大日乃光

2016年09月29日大日乃光2155号
「皇円大菩薩様の智慧の象徴 多宝塔鎮壇具納めの儀」

二つの陽の重なる吉日に 多宝塔の基壇の完成
 
皆さんようこそお参りでした。

昨日(九月十二日)は久々に、秋雨らしい良い雨が降りました。お陰様で今朝から一気に秋めいてまいりました。先月はこれまで体験した事のないような厳しい暑さでしたので、ことさら涼しく凌ぎやすく感じられます。

さて、去る九月九日〝重陽の節句〟の日に、多宝塔の基壇が完成しました。

古来より中国では偶数は陰、奇数は陽とされてきました。一月七日の七草の節句、三月三日の桃の節句、五月五日の端午の節句、七月七日の七夕、そして九月九日が重陽の節句です。数字の中で一番大きい九が二つ重なり、陽が重なるという意味で重陽(ちょうよう)の節句として、菊酒を飲んで健康を祝う習わしがあります。

その陽の極みの九月九日に多宝塔の基礎となる、これから建つ多宝塔を大地のような力強さで支える基壇が完成したのです。誠に有り難い事でありました。

その場所は、南大門からこの本堂に向かって一直線に延びる参道の西側になりますが、ここは先代が五重塔建立を発願された時、仮の建立場所とされた、まさにその場所なのです。この場所のことをおぼえている方は、二十五年以上信仰して頂いている方だと思われます。
 
陰と陽の両親の愛情
 
さて、先程奇数が陽、偶数が陰と言いました。前号で新たに夫婦となった二人の事から愛と慈しみへとつながる話をお伝えしましたが、一般的には男性が陽、女性が陰とされています。そしてお父さんを陽、お母さんを陰というようにも感じる方は多いと思います。

この父と母のことを歌った古歌の一つです。
 父は照り母は慈雨の親心
    違う心と子や思うらん

つい先日までのジリジリと照りつけ、ことさら厳しかった今年の夏の陽射しと、それに対してしっとりと潤す慈しみの雨、どちらも作物を育むに無くてはならないお天道様(太陽)と恵みの雨です。

子供を育てるにも、厳しい父の愛と優しい母の愛が大切です。しかし子供は厳しい父と優しい母の愛情が全く別のものと思うかもしれません。しかしこの父と母の愛は、同じように深いものだという意味の歌です。

父の愛も母の愛も、同じく子を思う心から出た慈愛なのは、皆さんも充分ご理解頂けると思います。それに対して母親一人、または父親一人で子供を育てなければならない方が最近増えているのを見るにつけ「さぞ、大変だろうなぁー」としみじみ思います。
 
スリランカの古き良き習わし
 
さて二十二年前の九月十三日、この本堂で何が行われていたか、おぼえている方はおられますか?

(数人の方から「スリランカから佛舎利が…」の声が)
そうです。スリランカのヴィマラ・シロガマ師(現在はシーラガマ大僧正)が、当時の官房副長官のドナルド・ディサーナカご夫妻と共に、スリランカの大菩提寺に伝わる佛舎利を五重塔に納めるためにお持ち下さいました。

それは当寺とれんげ国際ボランティア会(アルティック=ARTIC)のスリランカへの支援活動に対する御礼でありました。

スリランカと言えば、私が若い頃、先のヴィマラさんから聞いた古き良き習わしがあります。それは、子供達がお父さんお母さんに朝の挨拶として行なうこんな習慣です。

まずお母さんの足元に跪いて、
「お母さん、あなたは十ヶ月の間、苦しい中で私を胎内で育てて下さいました。生まれてからは血液を乳に変えて育てて頂きました。このご恩に対して、一生かかってもお返しする事は出来ません。どうか、いつまでもお元気でいて下さい」

お父さんに対しては、
「お父さん、あなたは暑い日も雨の日も、一所懸命働いて私を育てて下さいました。このご恩は一生かかってもお返しすることが出来ません。どうかいつまでもお元気でいて下さい」と唱えるのです。

国が違っても文化が違っても、父・母の恩を感じるという事は、全ての人にとって大切な事であるに違いありません。

かつては父親は厳しさ七分に優しさ三分、母親は優しさ七分に厳しさ三分でちょうどよいと言われたものです。

私の場合は大変厳しい父でしたし、僧侶になってからは更に厳しい先代(父)でありました。一方母は、全面的に受け入れて下さった事だけが思い出されます。
 
多宝塔は佛様の智慧の象徴
 
さて、この陰と陽、母と父を佛様の御心に置き換えれば、「慈悲」と「智慧」と言っても当らずとも遠からずでしょう。

信者の皆さんにとっては、母親のように全てを受け入れて包んで下さる皇円大菩薩様の「慈悲」。一方、私達僧侶には厳しく、見通されるような眼差しの「智慧」。この「智慧」を象徴しているのが、これから建立される多宝塔なのであります。

従って信者の皆さんにはあまり馴染みのない、佛様の厳しい一面を多宝塔が象徴しているわけですが、子供には父と母が必要なように、私達にも優しさ(慈悲)と厳しさ(智慧)が欠かせません。

その意味では皇円大菩薩様の御入定八百五十年の記念として、これから多宝塔が建って行くのは誠に有り難いことであり、意義深いことであります。
 
「鎮壇具」の意味と役割
 
ところでこの本堂は、かつての蓮華院浄光寺金堂(本堂)の跡であった事が、昭和三十年代の発掘調査でほぼ確定しています。

その決め手の一つが、この本堂の地下から鎮壇具の一つとして、約千二百年前の新羅から渡来した佛像の頭部(佛頭)が出土したことです。これは現在、熊本県指定の文化財となって、玉名歴史博物館に陳列されています。

鎮壇具の「鎮」は〝シズメル〟の意味で、戦前までは「鎮護国家」という言葉で、この「鎮」がよく使われました。国を外国から護り、悪霊邪霊を鎮める事が佛教や神道の大きな使命とされていました。

「壇」とはまさにお堂や塔などの基礎の事を言いますので、「鎮壇具」とは、お寺の大切な建物を護り、大地を鎮める佛具などの事であります。

一方で二十年前に完成した五重塔には不思議なご縁で飛来した、ガンダーラ出土の石造りの佛舎利容器を鎮壇具として納めました。

今回の多宝塔には、五重塔の曼荼羅や佛画を手配して下さったチベット佛教のコーチャン・リンポーチェ師から拝領した佛像を納めます。

これら佛頭、舎利容器、佛像などは五宝、五薬、五香、五穀などと共に納める鎮壇具です。この五宝などについては、改めて別の機会に詳しくお伝えいたします。
 
御霊力を高める鎮石の墨書
 
今回の多宝塔の鎮壇具を納めた後、全てを土(今回は山砂)で埋めてしまいます。その上に大地そのものを鎮めるために、「鎮石」(しずめ石、ちんせき)を載せて、二十三日の「鎮壇之儀」は全て終わります。

この上に多宝塔が建てられますと、おそらく私達が生きている間には二度と目にする事のない鎮壇具と鎮石なのです。

去る九月十二日の朝から心を込めて、皇円大菩薩様が縦横無尽に四方八方に慈悲のお働きをなさって頂けるように願いを込め、鎮石に五字の梵字を書きました。

どうか皆さん、この石に皆さんの願いを込めて下さい。そして同時に皇円大菩薩様のお慈悲の力を頂いて下さい。合掌




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