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2023年03月30日大日乃光第2366号
職場や学校を修行の場と定めて、明るい言葉で良き生活を始めよう

職場や学校を修行の場と定めて、明るい言葉で良き生活を始めよう
 
年度の変わり目に当たり〝一年の計〟を見直そう
 
いよいよ新年度がスタートする時期になりました。
年の初めは正月。
運気の変わり目は節分。
そして年度の変わり目として、四月があります。
 
二月の節分の時にもお伝えしましたが、その一ヶ月前の正月に立てた一年の目標、いわゆる〝一年の計〟をもう一度見直す機会として、節分を一つのきっかけにして頂きたいとお伝えしました。そしてこの四月にもまた、新年度に当たっての目標や計画を立て直してみられてはいかがでしょうか?
 
元旦には個人的な人生目標や、家族に関する計画や予定を立てる人が多いと思います。
それに対して新年度は進学や就職、中には転職という方もおられることでしょう。そうすると、学業や仕事に関する事柄が多くなるように思います。
 
そんな中で、私達は信仰生活を「個人の生き方を支えるもの」としての捉え方から、さらには、家庭や職場でどう活かすかを考えてみたいと思います。
 
日本人の伝統的な仕事観は、己を完成へと導く「菩薩行」
 
仕事とは、「事に仕える」と書きます。
意味としては「様々な事柄に、(己を虚しくして)お仕えする」という意味です。
また、人が働く事の意味は「傍(はた)を楽(らく)にする事」といった考え方があります。
「はた」とは、自分以外の周りの人々の事ですから、仕事とは、
「自分に与えられた役割に己を虚しくして仕えるような心構えで努力する事によって、周りの人々の役に立ち、周りを楽にし、ひいては社会のお役に立つこと」
という事ができます。
 
このような伝統的な仕事観に立つ時、仕事そのものが、そのままある意味では修行であり、「菩薩行」にも成り得ると思うのです。「菩薩行」とは、己の未完成を自覚する者が完成を求め、向上心を持ち続けて努力を続ける生き方であります。それに加えて社会や世間を少しでも良くしようと、様々な手立てを実行する行動に、「菩薩行」のもう一つの大切な意味があります。
 
まさに仕事そのものが、心の持ち方次第で己を鍛錬し、向上させながら、人様や世間の為になり、さらに仕事に真剣に携わることが自分自身を向上させる修行となるわけです。昔ながらの日本人の仕事観には、このような意味合いが確実にあったのです。
 
形有る僧侶の修行と形無き日常生活の修行
 
私達真言宗の僧侶の基本的な修行は「三密の修行」です。「三密」とは、この私達の身体の働き、口から出る言葉の作用、そして意識(心)の動きを聖なるものと思い定めて行う密教の修行です。
 
【身密】…身体の働きの象徴として、合掌などのような、手によって様々な印を結ぶ事を通じて佛様の世界に近づく。
 
【口密】…口でお経や御真言、御宝号などを唱える事で、佛様の世界と一体化する。
 
【意密】…心の中に佛様の世界と、佛様の救いのお働きを思い描き、その佛様の思いや御心に、自分の心を同化する。
 
以上は形のある形式を踏まえた、専門的な僧侶の修行であります。これを「有相の三密行(うそうのさんみつぎょう)」と言います。
 
それに対して、「無相の三密行(むそうのさんみつぎょう)」というものがあります。これは形のある専門的な、いわゆる「有相」の修行ではなく、形式を超えた、一般の生活の中で応用として行じる修行が、この「無相の三密行」なのです。
 
これは、例えば職場や学校で、上司や同僚、同級生や先生、はたまたお客様などに、
・どんな表情で、どんな動作で接するか?  【身密】
・どんな言葉遣いで接するか?【口密】
・どんな心構えで接するか?【意密】
 
などと、先の三密の身、口、意にそれぞれ当てはめて、生活や仕事の中で行なって行くことによって、仕事そのものが「無相の三密」の修行に成りうるという事なのです。
 
仕事を通じて実践出来る悟りに至る具体的な道筋
 
大乗佛教の世界では、修行者が心がけるべき六つの悟りへの道筋として「六波羅蜜」が大事にされます。
 
一、布施波羅蜜(施しを実施すること)
二、持戒波羅蜜(良きルールを守ること)
三、忍辱波羅蜜(耐え忍ぶこと)
四、精進波羅蜜(努力を続けること)
五、禅定波羅蜜(真に心を落ち着けること)
六、般若波羅蜜(慈悲と一体となった深い智慧を身につけること)
 
この最初に挙げられている「布施波羅蜜」の実践は、僧侶でなくても誰でも実行できる修行です。この「布施波羅蜜」を「無相の三密の修行」として実行する時の、具体的な手立てについて少し説明してみましょう。
 
日常生活の中で、いつでも誰でも実行できる布施行として「無財の七施」があります。
一、眼施(げんせ)…優しい思いやりの目で接すること。
二、和顔施(わがんせ)…穏やかで優しい顔で接すること。
三、言辞施(ごんじせ)…優しい暖かい言葉で接すること。
四、身施(しんせ)…身体で出来る奉仕。
五、心施(しんせ)…心に思いやりの心を込めて人と接すること。
六、床座施(しょうざせ)…座席を譲ること。
七、房舎施(ぼうしゃせ)…我が家に人を暖かくもてなすこと。
 
この「無財の七施」を「無相の三密」の立場から、職場だけでなく全ての生活の場面で活かす事を考えてみましょう。
 
今日、直ちに始められる「布施行」としての立居振舞い
 
相手にとって気持ちの良い身なりや清々しい笑顔、更には涼やかな眼差しをするように心懸けます。これらは全て、身体やそれに付随する【身密】の働きです。
 
身なりをサッパリと整えること自体が、仕事に臨む時の大切な事ですが、更には笑顔や優しい眼差しは、職場の皆さんに対してあなたが出来るささやかな貢献です。そしてまた、それは同じく周りの全ての人々への奉仕でもあり、無償のサービスなのです。
 
これらは体を通しての布施ともなるのです。これらは「和顔施」(わがんせ)「眼施」(げんせ)「身施」(しんせ)でもあります。
 
次に気持ちの良い明るい挨拶、ハキハキとした返事など、相手を良い気持ちにする言葉遣いなどが【口密】です。これを「言辞施」(ごんじせ)と言います。
 
それらの身体と言葉を使ったサービスや、奉仕としての「布施行」を、更に心の込もった「心施」としての【意密】の段階まで高めて行う時、周りに良き波動を拡げることが出来るはずです。そして良き職場環境が整うにちがいありません。
 
「私はまだ未熟者で、身、口、意の三つも同時にはむずかしくて」と感じた方は、口による、言葉遣いによる【口密】としての「言辞施」となる「明るい挨拶」だけに気持ちを集中してはいかがでしょう。
 
職場での最初と最後だけでも明るい挨拶をしようと決意してください。その決意でコツコツと今日よりは明日、明日よりも明後日、という具合に続けていくことこそが修行と思い定めてください。あまり難しく考えず、時には三歩進んで二歩下がっても良いのです。
 
特に、これから就職して社会人になる方や転職する方には、是非とも以上のような、職場が人生修行の場であるとする伝統的な価値観を、一度しっかりと受け入れて頂きたいと思います。そこからより良き新たな人生が始まるに違いありません。
 
古来より信じられて来た人間本来の神性と佛性
 
人は生まれながらに「何が良いことで、何が正しいことか」、更には「何が悪いことで、間違ったことか」を本来的に知っているとする考え方があります。
 
これは昔から子供を「子宝」ととらえ、子供は「神様のお使い」「佛様の子供」とする考え方に、どこか通じるものがあります。つまり、佛教的な考え方が伝来する以前から、私達日本人は子供の中に神様と佛様を見て来ました。
 
果たして現代では「良い事、正しいことを子供は生まれながらに知っている」という考え方を、素直に受け入れる人がどれぐらいおられるでしょうか?
 
「人は教育によって人となる」というのが、現代では妥当な感覚でしょう。確かに人は育てられた環境によって、考え方や行動の仕方が違います。
 
しかし、何が良い事で、何が悪い事か?というのは、一種本能的に人は分かっているという信頼感が私達の社会にはあります。
 
このことを佛教では、「一切衆生 悉有佛性」〔全ての生きとし生けるものは、悉く佛の種(佛の性質)を持っている〕と言い習しています。いわば人間に対する大肯定、人間尊重の原点と言ってもよいでしょう。
 
しかし残念ながら、何が良いことで何が悪いことかを本来的に知っていたとしても、多くの人々が「我欲」という煩悩によって覆われています。その結果、元々は円満で健やかな心であっても、ねじ曲がる人が出て来てしまうのです。
 
明るい声と笑顔の挨拶で心の垢落としから始めよう
 
そこで私達は日頃の修養や修行を通じて、この身と、この言葉と、この心を通じて、煩悩の垢を落としていかなければならないのです。これが、「人は何の為に生きるのか?」という根本的な問いに対する一つの答えでもあります。
 
そこで、私達は時には佛様の前に進み出て、一心に懺悔し、自らの不徳を反省する時間を持たねばならないのです。
 
それと同時に、日々の仕事の中で少しでも心構えを変えることによって、自分の心を素直にする手立てを、私達は有り難いことに確実に持っているのです。
 
そのためには、まず一番簡単で、実行しやすい言葉の使い方として、まずは自分から明るい声で挨拶をしましょう。出来るだけの笑顔で!声と表情が変わると、必ずや心も変わってくるに違いありません。
 
そして、それらの一つ一つが実は、佛様の心に通じる奉仕の行であり、無尽蔵に尽きることのない布施の実践でもあると信じて精進して下さい。そんな中から、豊かな心が少しずつでも周りに拡がっていくことを念じております。合掌       
      


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