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2023年07月08日大日乃光第2374号
慈悲と智慧の光の反射を誓った八百五十五年御遠忌大法要

慈悲と智慧の光の反射を誓った八百五十五年御遠忌大法要
 
 
周知させたい龍神入定の伝説
 
先程、弘法大師空海上人様と、皇円大菩薩様のお二人は、輪廻転生せずに長い修行に入られた(御入定された)とお伝えしました。
 
皇円大菩薩様が輪廻転生を選ばれずに、衆生済度の心願を成就するために龍に身を変えられて、桜ヶ池で七百六十年もの御修行に入られたという龍神入定の伝説は、蓮華院信仰にとっての根幹であります。
 
しかしこのお話を何の前置きもなく普通の人を相手に伝えると、「あなた何を言っているの?」と返される事でしょう。ところが長年親交のあるチベットの人達は、龍神入定の話に全く違和感を持たれませんでした。
 
また、弘法大師様の場合は、高野山奥之院の御霊廟において、今もなお生き続けて禅定を続けておられると、真言宗の僧侶のみならず、全国の〝大師信仰〟では広く信じられています。世間一般でも、敢えてそれを否定したり、とやかく言う人は殆どいません。
 
四十七年前に皇円大菩薩様の信仰を、「生涯を懸けて弘法大師信仰の域に達する様努めます」とお誓いして今日に至りましたが、まだまだ道半ばといった所であります。
 
死に新たな光を当てる科学者
 
そういった中で、最近『死は存在しない』(光文社新書)という本に出合い、心強く励まされる思いがしました。著者は田坂広志という、愛媛出身で私より一つ上の七十二歳のお方です。
 
東京大学で原子力工学という最先端の技術を研究し、三菱金属やアメリカで研究開発に尽力された工学博士です。また「社会起業家フォーラム」を設立されて、経営塾、起業塾を開かれる等、経営学者・起業家としても活躍されています。
 
ダライ・ラマ法王猊下を初め、四人のノーベル賞受賞者が名誉会員を務める「世界賢人会議」では日本代表に選ばれた素晴らしいお方です。そして平成二十三年には福島第一原子力発電所の事故に当り、第二次菅直人内閣の内閣官房参与として対策に尽力されました。
 
その田坂博士は宗教についてもたいへん造詣が深く、佛教、キリスト教、イスラム教を初め、かつての宗教、変化する前の原初の宗教は素晴らしいと称賛され、中でも特に佛教の哲学思想を高く評価しておられます。そしてこの書籍の最後で、科学と宗教の間に橋を架けるのが自分の役割と、書かれています。
 
宗教と科学の間に橋を架けるとは
 
この橋を架けるとはどういう事でしょう。
これまで科学者達の多くは、死後の世界や神佛の存在、霊魂や輪廻転生などの、宗教にとって根本的な問題を相手にして来ませんでした。肉体が亡びたら意識はない筈だから、そんな事があるはずがない、説明のつかないものは存在しないという唯物論的な立場です。しかし最先端の量子力学の知見によれば、そういった話も十分起こり得る、信じられるという仮説が提唱され始めているのです。
 
最初に述べた、皇円大菩薩様が末世衆生を救う為に、龍に身を変えて修行に入られたという伝説。そういう話が科学的にも全く荒唐無稽な事ではなく、ある仮説を通して実際に有り得るかもしれないという所まで来ているのです。それが常識になるにはまだ時間が掛かるとも仰っていますが、皆さんも『死は存在しない』という本を書店で見かけたら、ぜひ手に取って読んでみて下さい。
 
田坂博士はこの本で、私達が自我意識に包まれているから、様々な苦しみや不幸があると説かれています。この自我意識が溶け去った無我の境地に達すれば、世界の意識、宇宙の意識と繋がるという事です。
 
人は死ぬと、宇宙の意識が集積されたある場所(著書ではそれを〈ゼロ・ポイント・フィールド〉と表現されています)に繋がる。するとそこに集積された過去の意識も入って来て溶け合う。そうして個としてのエゴがなくなり、その結果、必然的に悩みや苦しみ、強い執着なども一切消えて行く…と、天国や極楽として宗教が伝えてきた来世の事を、科学的・合理的な立場で再構築されたような内容でした。
 
科学と佛教経典の不思議な一致
 
田坂博士は意識を五つの階層に分けて、段階的に進んでいくと考えておられます。
 
第一が表面的な自我意識。
第二が祈りや瞑想による静寂な意識。 賢我。
第三が無意識、無我の境地。
第四が個を超えた無意識、超我の境地。
第五が時空すら超えた無意識、真我の 境地。
この第二から第五の意識が深層自我として、先程の宇宙の意識に繋がるという事です。
 
これまで法話の中で、先祖供養の意味を「氷山の一角」に喩えて、先祖供養をしてしっかりした潜在意識(ご先祖様から子孫への命の流れ)に支えられると皆さんの心、顕在意識が安定して、私達は今を幸せに生きる事が出来るのですよと皆さんに伝えて来ました。
 
田坂博士の自我意識は、この顕在意識の事です。皆さんが今、蓮華院にお参りされているのも顕在意識によるものです。
 
博士は佛教の唯識思想が説く潜在意識、「末那識」と「阿頼耶識」に触れています。
とりわけ「蔵識」とも呼ばれる「阿頼耶識」の考え方は、先ほどの宇宙の意識が集積されたある場所という概念に非常に近いと思われています。佛教では「阿頼耶識」を第八識として、聖なるものに通じる一歩手前の段階と考えます。
 
経典に依れば、さらに第九識「阿摩羅識」と、その先の第十識も考えられています。第十識を喩えて言えば、大日如来の意識と言えます。宇宙の全てに遍満する、自我を遥かに遥かに超えた意識。その域に達すれば、人は死なない。到達しなくても全ての人の自我意識が取れ去って、そういう世界と一体化する。
 
このように最先端の科学の知見と不思議な一致を見せる、古来の宗教の直感的な洞察力に、博士は注目し畏敬されているのです。ですから一部の昏迷な科学者や、浅はかな評論家達と違って、田坂博士は科学の側にも宗教の側にも再考を促して、両者の間に橋を架けたいと仰っているのです。
 
そういった意味で、私達は今、とても良い時代に生きているのです。そしてこれから先、もっと楽しみな時代に向かっているのです。
 
介護福祉の世界での新たな知見
 
もう一つ、最近私自身が経験した、先端的な事柄の変化の事をお話しします。例えば今、家内は介護福祉施設でお世話になっていますが、介護福祉に於ける最先端の考え方とはどういったものでしょうか?
それは極力、助けない事だそうです。そして、当人が自力で積極的に動く様に仕向けるのだそうです。
 
そして、もう一つあります。その人を出来る限り長生きさせようとする為に、どうするかと言えば、他の人の世話をさせる、それも自主的にさせるのだそうです。そうすると、障害があっても、それを克服しながら長生き出来るのだそうです。この事は、今ではもう、ほぼ常識的な事になっています。
 
国際協力にも共通する介護福祉のあるべき姿
 
私は四十年程前にスリランカに行った時に次の言葉に出会いました。これは小学校の教育現場に貼ってあり、スリランカの教育現場では皆知っている言葉です。以前にも何回か紹介した事が有ります。
 
私がするべき事をあなたがするなら
私はする事がなくなってしまう
私が何者であるかを
あなたが決めるなら
私は自分自身をなくしてしまう
どうか私に自分で考え
自分で行動できるようにして下さい
 
これはスリランカの子供達が、保護者や先生達に訴えかけている発言の形を取っています。これはまさに国際協力の現場にも当てはまる事です。
 
途上国の人、例えばミャンマーの人達が自力でやるべき事を、外国から入って来た組織が上から指図したり、安易に手を貸してしまったら、その国の人達が自分達のアイデンティティを失くしてしまう。
 
同じように、介護福祉の分野でも老人は気力も体力も無く、動作が遅いから代わりにしてあげる、では駄目なのです。その人は益々やる気を無くし、生きる気力を失って長生き出来なくなり、また具体的に色んな機能も回復しなくなるそうです。
 
そのような時に最も大事な事は、例えば食器を配って、料理を取り分けてあげて下さい等と、他人の為に何か具体的に親切な事をするように促す事です。やってもらった人も「〇〇さん、有難う」と感謝の言葉を言われます。
そのような良い言葉のシャワーを浴びる事が生命力を活性化し、機能を回復させる事にも繋がって行くのです。こういった素晴らしい介護福祉の考え方に、目を見張る思いでいます。
 
蓮華院の三信条に凝縮された人として生きる為に大切な事
 
この様に、私達は全てにおいて、人の為に何かをする事で喜びを感じ、それに対して相手も有難うと言葉を返す。その間の心の交流。これこそが人間にとって、最も大事な事なのです。
 
ですから日頃から蓮華院の三信条、「反省・感謝・奉仕」と、この三つをもう耳にタコが出来ていると思いますけれども伝え続けております。
 
「あー、今までのこれはいかんかったな」と反省する。
「でも、こういう自分でも生かしてもらっている、有難いなー」と感謝する。
そして、「だったら自分も少しでも佛様の役に立つように」と奉仕の心に目覚める。
 
自分の為だけでなく、他者の為に皇円大菩薩様の光を反射しよう
 
以前にも紹介しましたが、坂村真民先生の詩の中に次の一篇があります。
 
「すべては光る」
光る
光る
すべては
光る
光らないものは
ひとつとしてない
みずから
光らないものは
他から
光を受けて
光る
(『念ずれば花ひらく』サンマーク出版より)
 
この目の前の世界が見えているのは、光を受けて反射しているからです。
光を受けても吸収して、外に反射しないブラックホールは決して見えません。
今、この法座から皆さん達の様々なお顔を拝めるのも、皆さん達が太陽の光を反射しているからです。
 
それと同じ様に、先程の八百五十五年御遠忌大法要の願文の中でも、
 
ここに集いし弟子職員、並びに全国信徒一同と共に、皇円大菩薩の御心を体して、混迷の時勢に菩提心を以て広く深く、各自の持ち場にて皇円大菩薩の慈悲と智慧の光を反射し、より良き光を放つべく精進努力せん事を誓う事こそ、御本尊皇円大菩薩のお恵みに報いる最勝の道に他ならず
 
と、皇円大菩薩様の御恩に報い、その慈悲と智慧の光を反射するよう精進努力する事をお誓いします、と奏上しました。
 
最も大切な事は、佛様の有難い光を少しでも多く反射する事です。それは自分の為だけではなく、他者の為にも何かをしてあげよう、何かをさせて頂こうと行動を起こす事なのです。
そして自分自身も向上心を持って伸びて行こう、少しでも人間性を磨いて行こうと決意し、行動する事であります。
 
周りに自分よりも困っている人がいたら、何か救いの手を差し延べる。これが佛様の光を反射する事です。
 
今日のこの佳き日に、皆さんとこうして、沢山の方々にお目にかかれて、本当に今日は嬉しく思っております。有難うございました。合掌




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