ホーム > 大日乃光 > 大日乃光一覧

大日乃光






大日乃光

2023年12月14日大日乃光第2387号
心を一つに世界平和を祈った奥之院大祭柴燈大護摩祈祷

心を一つに世界平和を祈った奥之院大祭柴燈大護摩祈祷
 
皆さん、奥之院開創四十五周年の大祭に、ようこそお参りされました。約一時間に亘る篤い熱い祈りの中で、皆様声を一つに、心を一つに真剣にお参り頂きまして誠に有難うございます。
 
これから九州場所に出られる北勝富士関と北の若関もここにお運び頂きまして有難うございます。四年振りの大相撲力士のご参詣に、感無量の心持ちであります。
 
深い佛縁に導かれる奥之院大祭
 
ここで柴燈大護摩祈祷について、その歴史的背景を含めて少しご説明致します。あちらに小岱山の観音岳があり、有明海を挟む南西側には雲仙普賢岳があります。観音岳も普賢岳も、日本に伝来して頂いた佛様を山名に冠しています。
 
そして熊本市と玉名市の境には金峰山(きんぽうざん)があります。桜で有名な奈良の吉野には金峯山(きんぷせん)があり、修験道(山岳信仰)の広まりと共に、日本各地に金峯山の名が広まりました。その金峰山は元々は観音菩薩の浄土の事です。
 
この様に、日本各地の何百という山や峰々には佛教的な名前が付けられています。また古来から、日本人は山にはご先祖様がおられる聖なる場所、そして来世に繋がる場所と考えてきました。
 
「山に入って修行する」という言い習わしがあるように、日本人は佛教伝来以前から山に親しみを持ち、恐れを抱き、その中で自分の魂を清め、修行するという精神文化が育まれていたのです。
 
そこに真言密教とともに護摩祈祷の作法が入りました。後ろでまだ護摩の火が燃え盛っていますが、壇の上に木(丸太)が井桁に組んであります。この木は人間の持つ様々な煩悩を表します。その煩悩を佛様の智慧の炎によって焼き尽くすという具体的な形をとった修行であり祈祷なのです。
 
それが日本古来の山岳信仰と交わって発展し、このように野外で大掛かりに護摩を焚くという作法が確立しました。これが柴燈護摩なのです。
 
俊 律師が名付けた小岱山
 
小岱山は、月輪大師俊 律師(一一六六~一二二七年)が二十九歳の頃、筒ヶ岳の八合目付近に正法寺を建立され、観音岳と名付けられた事が契機となって、霊山としての信仰を集めてきました。また山中には随所に明星岳、仁王ヶ滝などの名が残っており、密教と山岳信仰が融合した修験道の名残りも多く残っています。
 
奥之院大祭で、修験の作法である柴燈大護摩祈祷を修すのは、小岱山のこのような歴史に因んでの事なのです。このように当山奥之院がこの地に建立されたのは単なる偶然ではなく、大いなるみ佛様のお計らいによるものと確信しております。そもそも「小岱山」と名付けられたのは、他ならぬ俊 律師そのお方なのです。
 
俊 律師は肥後国飽田郡(現在の熊本市)のお生まれで蓮華院の御本尊、皇円大菩薩様とは遠縁に当たられます。三十四才で有明海から南宋に留学されて、十年後の帰国の際に一時舟山群島(浙江省舟山市)の岱山島に寄港され、そこにあった補陀落寺に二年程滞在されました。補陀落とはポータラカの音訳で、その意味は観音菩薩の浄土ということです。この補陀落伝説のあった岱山になぞらえ、当時墨摺山と呼ばれていた山に小岱山と名付けられたのです。
 
俊 律師は朱子学の経典も日本に請来されて、正法寺で佛法と共に朱子学も講じられたので、小岱山は「日本朱子学発祥の地」とも呼ばれています。
 
皇室の菩提寺〝御寺泉涌寺〟
 
俊 律師が五十三才の時、京都東山にあった弘法大師建立の仙遊寺を拝領し、泉涌寺(=現在の真言宗泉涌寺派の総本山)として中興開山されました。
 
俊 律師は鎌倉初期の権力者、後鳥羽上皇を始め当時の歴代天皇・上皇様や鎌倉幕府の北条政子、執権北条泰時等の帰依を受けられました。
 
泉涌寺は貞応三年(一二二四年)に皇室の祈願寺と定められ、幕末に至るまで歴代天皇・皇后の葬儀を一手に担い、「御寺(みてら)」の尊称を受ける皇室の菩提寺となりました。以来現在も多くの皇族の御位牌が祀られています。
 
また百二十六代の皇統の中で、四十人近くの歴代天皇が僧侶になられました。聖徳太子を初めとして、皇室は代々熱心な佛教徒でもあられたのです。
 
御即位後、今上陛下が大嘗祭を始め、神道の大切な行事をたくさん務めておられる事は、皆さんご存知の事と思います。千四百年以上も続いたこの長い長い〝かんながらの道〟は、開創法要でお伝えしたように、実は佛教と共に夫婦の様に紡ぎ合い影響しあって歩んで来た道なのであります。
 
神道と共に歩んだ日本の佛教
 
今日まで伝わる日本佛教には、素晴らしい哲学性と精神性があります。例えば「山川草木悉有佛性」という言葉があります。山も川も草も木も、またもっと言えば石ころ一つでさえも佛の化身であると、こういう考えにまで至ったわけです。さらに「草木国土悉皆成佛」と、全てが悟りを開いている、という言葉もあります。
 
このような考え方は、最も高度な佛教と言われるチベット佛教にすらありません。そこには日本の自然風土が育んだ、日本人本来の感性に加えて、明らかに日本神道の影響があります。
 
さらにこの考えを推し進めたのは真言密教と天台本覚思想の融合によるものと思われます。
この様に佛教は神道の影響を受けて進化し、神道も佛教の影響を受けて進化し、互いに切磋琢磨して響きあって来たのです。
 
こうして本来異なる二つの宗教が、キリスト教とイスラム教の対立のように争う事なく協調共存してきた歴史は世界の人類史でも極めて稀な事です。その大元は、歴代の天皇陛下が佛教も大切に信仰された事が大きいと思います。また日本人の懐の深さや柔軟性を表すだけでなく、争いを避ける智慧と言える大切なものがその中にあるのかもしれません。
 
ところが明治時代に国策による神佛分離が行われ、廃佛毀釈運動が各地で起りました。佛教と神道はそれまでは夫婦のように分かち難く仲良く助け合って来たのですが、国家の政策によって、いわば強制的に離婚させられたのです。
 
しかし、天皇陛下は佛教に対しても深く敬虔なお気持ちをお持ちのはずで、その一つの表れとして、皇嗣秋篠宮殿下は「御寺泉涌寺を護る会」の総裁を平成八年以来、長く務めておられます。
 
家庭の中から神佛習合の祈りを
 
この度も西浦荒神社(総社宮)の神官様に柴燈護摩道場を祓い清めて頂きました。このような神佛習合の柴燈大護摩祈祷を通じて神道と佛教が昔から協調して来たこの国の成り立ちに、ぜひ思いを馳せて頂きたいと思います。
 
佛教と神道は全く違う宗教ではなく、互いに力を合わせ助け合いながら日本を支えて来たという事をもう一度、皆さん一人一人が思い起こし、神様佛様を大事にするご家庭をぜひ築いて頂きたいと思います。そして家族の平穏無事を実現して頂きたいと思います。
 
それに加えて、願いごとの一つは必ず叶えて頂ける、非常に御霊力のある皇円大菩薩様に、真剣にお参り頂いたのであります。私達が心を一つにして一心に祈れば自分自身の煩悩が消滅し、それと同時に皆さん達の願い事が叶うと確信しています。
 
皆様は皇円大菩薩様への真剣な祈りを今体験されました。この真剣な祈りは人々の心を清め、心を平穏にします。その事が、ひいては必然的に願いを叶え、調和と発展が厳然として実現していくのです。
 
平和への祈りと行動を始めよう
 
今、世界は大変混沌としています。戦争のとば口に立っているのではないかとさえ心配される方が増えています。そういう時にこそ、まず私達自身が世界平和を祈り、平和への思いを抱いて行動を起こさなければなりません。
 
平和への行動とは何か?
身近な例で言えば、これは脳科学的に証明されている事ですが、人の為に世話をする、何か手助けをする。手を差し延べるとか、明るい良い言葉をかけるなど、そういう事を実行致しますと、何と「オキシトシン」というホルモンが脳から分泌されるのです。このオキシトシンというホルモンは、人を元気にして、そして老化も防ぐのだそうです。何と有難い事でしょうか。
 
「情けは人の為ならず」と昔から言いますが、まさに周りの人のために何かやろうと真剣に考えて行動する事が、私達に大きなエネルギーを与えると共に、私達自身が元気になる元を作りだすという事が証明されているのです。
 
まさに今日の皆さん方の真剣な祈り…。その中にはご自分のための祈り、或いはご家族のための祈りもあるでしょう。しかし願文で奏上したように、自分のための祈りを超えて、他者に対する思い、社会に対する思い、国家への思い、世界への思い、地球への思いで祈りを込める。
 
これは中々難しい事ですけれども、まずは一歩お隣、向こう三軒両隣から、ご家族以外の人のためにも祈りを捧げてみて下さい。そして何か手を差し延べる事が、巡り巡って自分自身の願いを叶え、幸せの元になるのです。
 
世界を変える第一歩を始めよう
 
仁王門の傍には、もう四十年以上も前から「同胞援助堂」が建っています。これは今を去る昭和五十五年の三月三日に先代真如大僧正様が「同胞援助活動」の発足を御垂示なされてから、世界の不幸な人達を救う募金活動のために建てられました。
 
その為に海外に行く事は自分には出来ないと仰られる方にも、ほんの少し、お気持ちだけでも浄財を募金して頂きたいという主旨の下に、募金活動をかれこれ四十三年間続けて参りました。
 
その結果として、このお寺はただ単にお寺の為だけにやっている、信者の為だけにやっているという域を超えて様々な活動を実施し、そのお陰で多くの方々からご信頼を頂くようになり、多くの賞を頂いて参りました。
 
これは決して、賞を頂くのが目的ではありません。そうではなく、佛様の慈悲の光を少しでも周りに反射して行こうと続けてきた結果なのであります。
 
一人びとりが笑顔をもって人に接する。
明るい声をかける。
たったそれだけで良いのです。
 
身近な事から、ほんの少しだけ一歩前に踏み出してみて下さい。これまで照れくさくて出来なかったと言われる人も、思い切って一歩踏み出して頂きたいのです。それが世界を変える一歩になって行きます。
 
大袈裟に聞こえるかもしれませんが、一人一人がそういった志を持って実際に行動に表し、心より相手の事を思いやる。
 
その事が、この世界を変えて行く一番大事な第一歩であるという事を、皆さん心にとめて、今日の祈りの波が世界に拡がり、少しでも世の中が良くなり、世界が平和になる様に、これからも小さな一歩を是非続けて頂きたいと、切にお祈り致します。本日は真剣な祈りを有難うございました。合掌




お申し込みはこちら 大日新聞(月3回発行)を購読されたい方は、
右の「お申し込みはこちら」からお申し込みいただくか、
郵送料(年1,500円)を添えて下記宛お申し込みください。
お問い合わせ 〒865-8533 熊本県玉名市築地玉名局私書箱第5号蓮華院誕生寺
TEL:0968-72-3300