2025年05月17日大日乃光2433号 貫主権大僧正様御親教
皇円大菩薩様の伝説と蓮華院誕生寺の縁起(一)
皇円大菩薩様の伝説と蓮華院誕生寺の縁起(一)
来たる六月大祭を前後に挟み、母の日と父の日のある五月と六月はとても良い時候と思います。 私は毎朝、貫主堂の佛間に父(先代真如大僧正様)と母のお位牌をお祀りしてご挨拶をします。その後、開山上人様、皇円大菩薩様にご挨拶を致します。 その上で瞑想に入ります。
これは佛様と一体となり、全国の信者の皆さんの祈願をするための瞑想です。 その域に達すると、風が爽やかに吹く中で馨しい香りに包まれているといった良い気持ちになります。 そして世界が少しでも平安でありますようにと祈り、合わせて皆さん達の六月大祭への道中の安全や、それぞれのご家庭が平穏無事であります様にと祈念しております。
皇円大菩薩様の瞑想法
その皇円大菩薩様の瞑想法の大事な部分を、大祭前に少しお伝えします。
虚空(宇宙)ノ中ニ 字アリ 字変ジテ水大トナル 水大変ジテ地球トナル 地球ノ中ニ日本国アリ 日本国ノ中ニ桜ヶ池アリ 桜ヶ池ノ無限ノ池底ニ 字アリ 字変ジテ蓮ノ実ト成ル 蓮ノ実ヨリ芽ヲ出ダス 七百六十年ノ歳月ヲ経テ水面ニ至ル 水面ニ於イテ紅蓮華開敷ス 華台ニ 字アリ 金色ノ光ヲ放チテ十方ヲ照ラス 金色ノ 字変ジテ三弁宝珠トナル 三弁宝珠変ジテ皇円大菩薩トナル 形ヲ沙門ニ擬シテ 胸ノ前ニ秘印ヲ結誦シ 衆生済度ノ大誓願ニ住シテ 結跏趺坐シタマフ
まず虚空、即ち大宇宙の中にバンという悉曇(しったん)の梵字があります。
虚空ノ中ニバン字アリ バン字変ジテ水大トナル 水大変ジテ地球トナル 地球ノ中ニ日本国有リ 日本国ノ中ニ桜ヶ池アリ
今は科学技術によって地球を外から見る写真がありますが、これは宇宙の中に浮かぶ綺麗なまん丸の地球を表します。 桜ヶ池は伝説では深い深い無限の池で、深さを測ろうとして測れなかったという言い伝えがあり、遠州七不思議の一つとされています。その水底が善光寺の塔頭、本覚院の「阿闍梨池」に繋がっているという伝承もあるのです。
修行の精華が凝結した御尊像
桜ヶ池ノ無限ノ池底ニア字有リ
このア字が池の底にあって、その字がじわーっと変化して行きます。そしてアーモンド形の蓮の実となる。それから芽が出ます。その芽が遺伝子の二重螺旋のようにすーっと上がって行き、七百六十年の歳月を経て水面に至る。 芽が水面から出て大紅蓮華となり、大きな真っ赤な蓮の花となって八葉蓮華が開きます。その上に蓮台があります。
蓮ノ大紅蓮華開敷ス
開く時に香りが周囲に広がって行きます。 その華台に (アーンク)の梵字がある。金色の光が四方八方十方を照らし、皇円大菩薩様となる。 本院の本堂の御本尊、皇円大菩薩様の御尊像は、紅い蓮華の上に座しておられるお姿です。
胸ノ前ニ秘印ヲ結誦シ 衆生済度ノ大誓願ニ住シタマフ
印を結びながら、昼夜に億兆の無限の衆生を念じて、朝も昼も夜も年中、何千万、何億、何兆もの多くの人々や事柄に心を飛ばし、衆生済度の大誓願に住したまうお姿なのです。 この御尊像を形にする時、今村九十九大佛師にそのようなお姿を表されるように色々注文をして謹刻して頂き、顕現されたのです。 それまでの二十年以上の瞑想の中からお姿を現された御尊像なのであります。
「功徳行」の後、本院で夕勤行『龍神の説法』を二回上映
さて、いよいよ当山で最も大切な六月大祭、皇円大菩薩様御入定八百五十七年大祭が迫って参りました。 今年の大祭も十三日の本院でのお参りを中心に執り行いますが、十二日の十四時から前行としての「功徳行」を厳修し、「大梵鐘お身ぬぐい式」を執行します。
それに続いて今年も場所を本院の本堂に移し、夕勤行を執り行います。 このお参りには、「功徳行」に参加された方も、そうでない方も、ぜひご一緒にお参りして頂きたいと思います。
また、十三日のお参り前と、お参りが終わってからの二回、『龍神の説法』を上映します。 『大日乃光』誌面でも六月大祭に向けて、いま一度蓮華院信仰の原点を振り返るために、皇円大菩薩様御入定の伝説と蓮華院中興の縁起を二回に亘り連載します。 まず初めに戯曲風の皇円大菩薩様伝をお伝え致します。
時ハ嘉応元年六月十三日
それは嘉応元年(西暦一一六九年)六月十三日の事でした。 その日は蒸し暑い一日でありました。 ここは太政大臣花山院(藤原)忠雅公の邸宅(太政大臣は今でいう総理大臣)。午前中はまだ爽やかな風が比叡山から吹き下ろしていました。その風と共に一通の悲報が忠雅公の元に届きました。それは、 「皇円上人がお亡くなりになられた」 という報せでありました。 「我が同族の皇円上人はついにお亡くなりになったのか!確か御年九十六歳であったのう。とうとう来るべき時が来たのか…」 と深い悲しみに沈みながら、在りし日の皇円上人様の温顔と謦咳が忠雅公の脳裏に蘇りました。その悲しみを象徴するように、雲が低く垂れ込め、重苦しい空気が京の都を支配しました。
その日の申の刻(午後四時頃)、一人の旅の僧が忠雅公の邸宅に錫を止めました。 「当館の主にご相談があるので伺いました。是非にも主にお目通り願いたい」 門前に佇むその僧侶に、 「貴僧の御名前を伺いたい」 と門番が問い質すと、 「拙僧は比叡山に住していた皇円と申す者。何としても主にお目通りしなければなりません。よろしくお取り次ぎの程を」 気品のある老僧の切羽詰まった申し出を受けて、門番は当主の忠雅公に言上しました。
すると忠雅公は、 「なに!!皇円とな!そんな筈はない。 皇円上人は本日寅の刻(午前四時頃)に御遷化なされた(亡くなられた)と聞いておる。その僧は皇円上人を騙る売僧に違いない!化けの皮を剥がしてやる。庭に引っ立てろ!」と激怒されました。
驚愕ノ対面
ほどなくして、旅の僧は忠雅公との面会が叶いました。 忠雅公「そこもとの名は?」 皇円上人「肥後阿闍梨皇円と申す」 忠雅公「何!皇円と申すか!!ならばその面を上げよ!」 編笠から顔が覗く程に、その旅の僧は静かに顔を上げました 忠雅公「おお!皇円上人様、あなたがお亡くなりになったというのは間違いだったのですか?」
皇円上人「否、それは誠の事です。私は半日前に今生を終えました。しかし次の生を享けてしまえば、それまでの八十余年の修行も学問も、全て忘れ果てる事になります。その宿命を受け入れる事は、あまりに残念に思いました。そこで永遠の命を保つという龍神に身を変えて、更なる衆生済度の心願成就のために修行を続けていきたいのです。
幸い弟子の法然房が遠州の桜ヶ池を捜し当てました。彼の池こそ、龍神修行にふさわしい池です。 しかし彼の地の領主にご挨拶をせねば、その池に入るに偲びません。 そこで桜ヶ池一帯の領主であられる貴殿に、龍神修行に入る許しを頂きに参上したのです」
忠雅公「そうでしたか。そのように崇高な御誓願を立てておられたのですか…。 そのような御誓願の前には私の所領であろうとなかろうと、もはや些事に過ぎません。どうぞお心おきなく桜ヶ池にて龍神修行にお入りなされませ」 感動に目頭を熱くした忠雅公がそう言い終わるや否や、皇円上人様は忠雅公の前から忽然と姿を消してしまわれたのでした。
火急ノ早馬
それから数日後、忠雅公の邸に、所領の遠州から早馬で、火急の報せが届きました。 「頼もう!頼もう!!我は遠州よりの伝令を仰せつかった者でござる。 当家の主に伝えたき事ありて、罷り越しましてございます!!」 その報せには次のように記してありました。 『桜ヶ池の上に風も吹かずに突然龍巻が起こり、雨も降らずに大洪水を起こし、池の中の塵芥を全て周辺に払い上げてしまいました。周辺の住人は大いに驚いております』と。
「その日はいつだ!」 と忠雅公が尋ねると、 「六月十三日の申の刻でございます」 という答えでありました。 「おぉ!!不思議な事もあるものだ。 その日、その時刻に霊体となられた皇円上人が当家にお越しになり、桜ヶ池を借り受けたいと仰せになられた。 まさにその日付と時刻ではないか! 皇円上人はまさにあの直後に、龍神としてのご修行のために桜ヶ池に御入定なされたのだな」 この話は法然上人の伝記、『源空(法然)上人私日記』と『九卷伝』に記されています。
開山上人様への御霊告
この事から皇円上人様が龍神となられて、桜ヶ池に修行のために御入定なされたという伝説が始まるのです。
その龍神御入定の後、皇円上人様の甥の子の弟子に当たる惠空上人が、当山の前身にあたる浄光寺蓮華院を建立されました。その場所こそ、皇円上人様のお母上様の一族である大野氏の館跡であり、現在の玉名市築地のこの蓮華院誕生寺なのであります。
以来蓮華院は、肥後の国一帯の巨刹、名刹として法燈を輝かせました。 鎌倉時代の永仁六年(一二九八年)の『東妙寺文書』(国指定重要文化財)によれば、肥後国浄光寺(蓮華院)が、朝廷から寺域での狩漁など、生き物の殺生を禁じる「殺生禁断の宣旨」という詔勅が、勅願寺の東妙寺に先立って下されていた事が記されています。つまり惠空上人私建立でありながら、時の天皇陛下から直々にお墨付きを戴く程、由緒のある大寺院だったのです。
その後、さしもの大寺院であった浄光寺(蓮華院)も、天正年間(戦国時代)に戦禍に巻き込まれて焼失し、時代の変遷と共に小さな草堂を数ヶ所残すのみの廃寺となりました。
以来三百五十年程後の昭和四年、先々代の川原是信大僧正様(開山上人様)に、 『我は今より七百六十年前、遠州桜ヶ池に菩薩行のため龍神入定せし皇円なり。今、心願成就せるを以て汝にその功徳を授く。よって今より蓮華院を再興し、衆生済度に当たれ』 との御霊告を授けられた時から、当山の中興への道が開かれました。 以来この御霊告だけを頼りに、現在の本堂周辺に仮本堂と庫裡(寺院の住居)が建てられ、最初は細々と、しかし力強く寺院としての前進が始まったのであります。(続く)

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