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2026年09月05日大日乃光第2449号
「一切衆生 悉有仏性」を合言葉に悲しみを超えて笑顔を交わし合おう

「一切衆生 悉有仏性」を合言葉に悲しみを超えて笑顔を交わし合おう

皆さん、暑い中ようこそお参りでした。今日は、先代英照大僧正様の初盆供養を兼ねてお参り致しました。先代の子や孫達に加えて、先代の小学校以来の親友のお二方も佐賀から駆けつけて、ご一緒にお参りされました。 本当に有難いことでございます。

天災が現す「諸行無常」の理

さて、先月二十八日に令和八年熊本地震が発災して、今日で十六日目になりました。 地震によって亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げますとともに、被害に遭われた皆様に心よりお見舞い申し上げます。

蓮華院のある熊本県北地域では大きな被害はありませんでしたが、八代市で被災された準教師の前田常忍さんは今日も見えておられません。信者さんの中に亡くなられた方はおられませんが、複数の方が被災されました。 二年前のこどもの詩コンクールで特別三賞を受賞して、奥之院大祭の詩碑除幕式で、受賞者代表挨拶を立派に務めて頂いた子の訃報が、新聞やテレビで報じられました。

このように予期せぬ災害などで大切な人との突然の別れに直面し、昨日まで確かにそこにあった笑顔や温かい声が一瞬で奪われてしまうことに、「なぜこのように理不尽なことが起きてしまうのか」と、私たちの心は悲しみと虚無感に苛まれます。 まさに「諸行無常(あらゆるものは移ろいゆく)」というお釈迦様の教えに思い至ります。

無常を肯定的に乗り越える教え 真言宗では、「無常」とは単に「すべてが消えてなくなる虚しさ」ではありません。 弘法大師様が示された密教の教えでは、「命の形が変わっても、その魂が遺した光や想いは、仏様の広大な慈悲の世界(密厳浄土)に包まれ、永遠に生き続ける」と受け止めてまいりました。

そして鎌倉時代にお釈迦様の教えに立ち還ろうと戒律復興された叡尊上人様は、悲しみや苦しみの渦巻く末法の世に、ただ目を閉じて祈るだけでなく、「今生きている私たちが手を取り合い、互いに助け合うこと(実践)こそが真の慈悲である」と教えられました。

先代英照大僧正様も、この教えを胸に、幾たびも率先して被災地に身を投じられ、私たちを率いて人々の苦しみ悲しみに寄り添う救済活動に尽力なさいました。 無常の世界だからこそ、目の前の一瞬の命の輝きを慈しみ、大切にされたのです。

悲しみを越える三つの方法

ここで私たちがこの深い悲しみをどのようにして乗り越えていけばよいのかを、三つの形でお伝えいたします。
一、悲しみを無理に打ち消そうとせず、ありのままに抱きしめること。
「諸行無常」を受け入れるとは、涙を止めることでも、感情を殺すことでもありません。悲しいときは深く悲しんでよいのです。その涙は、あなたがその方をどれほど大切に思っていたかという証であり、仏様の前で流す尊い汗のようなものなのです。

二、遺された「言葉や想い」をこの世に咲かせ続けること。
亡くなられた方が遺してくれた温かい思い出、優しい言葉、素晴らしい作品や志など。それらは決して消え去ることはありません。 私たちがその想いを胸に抱き、誰かに優しく接したり、前を向いて生きようとするとき、亡き人は私たちの心の中で、仏様の光とともに生き続けるのです。

三、小さな「慈悲」の行いを積み重ねること。
叡尊上人は「病人を救い、困っている人に手を差し伸べよ」と、貧窮孤独の衆生への救済活動に邁進されました。 大きな悲しみに暮れるときにこそ、隣にいる人に温かい声をかけ、手を取り合う。誰かのために祈るという「小さな善行(慈悲の実践)」を重ねてみてください。 誰かを温める行動が、巡り巡って私たち自身の傷ついた心を温めてくれるのです。

人は一人では耐えられないときがあります。だからこそ私たちにはお寺があり、僧侶がおり、温かい信者さん同士の集いがあります。 亡くなられた方の魂が仏様の御手の中で安らかであることを深く祈念するとともに、遺された私たちが互いに支え合いながら、一日一日を大切に生きていくこと。 それこそが最上の供養であり、無常を超えてゆく唯一の道と言えるでしょう。 どうか一人で抱え込まず、いつでもお寺にお参りください。 共に祈り、共に歩んでまいりましょう。

発災直後の二ヶ寺への見舞い

さて、私は地震発災の翌々日(七月三十日)にれんげ国際ボランティア会(アルティック)の久家事務局長と被災地を巡りました。 私が九州三十六不動霊場会の会長を務めている関係で、まず熊本市内の霊場会の二ヶ寺をお見舞いしました。

一ヶ寺目は第十九番札所の木原不動尊さんでした。日本三大不動尊の一つとされ、採灯護摩を焚いて焼けた護摩木の上を素足で歩く「火渡り」の荒行で有名な天台宗のお寺です。二ヶ寺目は第二十番札所の大慈禅寺さんです。鎌倉時代に皇族の僧侶が開山され、かつて曹洞宗の九州本山を務められた名刹です。 両寺院とも、十年前の熊本地震の時も被害に遭われました。

木原不動尊さんでは手水舎の屋根が倒れ落ち、灯籠がバラバラに崩れていました。本堂の中では仏様が倒れ、十年前の地震で壊れ、その後修理された白壁がまた崩れていました。 大慈禅寺さんは緑川の河岸で、おそらく地盤が緩く、より深刻な被害を受けておられました。

十年前の熊本地震から十年がかりで修復に努め、来年の四月十五日に復興大法要を営む日程が決まり、畳替えを始めておられた矢先での今回の地震でした。 お堂というお堂の壁や天井が崩れ落ちて、身の丈四メートルのお釈迦様の木造座像の御本尊の左腕にひびが入っていました。 県指定重要文化財の為勝手な修理は儘ならず、十年前にも右腕が落ちるなどのたいへんな被害に遭い、仏師さんを二年も待ってようやく修理が始められるという経緯で、復旧されたばかりなのです。 青銅製の灯籠も倒れ、また修復には長い時間がかかるという有り様でした。

八代で出会えた光り輝く笑顔

八月二日の日曜日には奥之院院代の啓照と一緒に八代市氷川町の前田常忍さんと、同じ八代市内の医王寺さんをお見舞いしました。 医王寺さんは九州八十八ヶ所百八霊場会の五十四番札所に当たる高野山真言宗のお寺で、本堂も庫裏も完全に崩れ落ちていました。

地震発災時、ご住職と奥様は庫裏の中の居間におられました。壁が傾き屋根が落ちて下敷きになったそうですが、たまたま座っていた場所に隙間が出来たそうです。隣に娘さんの家族が住んでいて、慌てて飛んで来られて声をかけると瓦礫の下から「おーい」と返事がしたそうです。外から崩れないように慎重に瓦礫を撤去し、体が通るぐらいの脱出口を設けて出られたそうです。 怪我もかすり傷ぐらいで済み、誰もが奇跡の大生還だと讃えました。

お寺の奥様のことを「坊守さん」と呼びます。ご住職は笑顔を絶やさず話されましたが、坊守さんもにこやかな笑顔で明るく話をされました。 この医王寺さんの九死に一生の体験談を伺うと、人の命運というのは分からないものだと改めて思いました。倒壊の瞬間、たまたま隙間の出来る場所に居られたから助かったのです。 また夕餉の支度をする四時二十七分という時間帯には出火の危険性がありましたが、火事にならなかった事も不幸中の幸いでした。 医王寺さんは「仏様のお陰で助かった、助けて頂いた」と仰いました。

皆さんが同じように「仏様に助けて頂いた」と思ったら、次はどうしたら良いと思いますか? そこで蓮華院の三信条、「反省・感謝・奉仕」の心で恩返しです。 笑顔を交わし合う形無き修行 前回私は、日々のお勤めの中で行じている、形の有る「有相の三密行」をお伝えしました。 身体に仏様の印を結び、口に御宝号を唱え、心に仏様を思う「身・口・意」の「三密加持」により、「入我我入」の境地に至る。 これは高度に専門的な僧侶の修行であります。

これに対し、一般の人が家庭や職場、学校など、生活そのものの中で行じる修行が、形の無い「無相の三密行」と言えます。 他人に対し、どんな表情で接するかを「身密」、どんな言葉遣いで接するかを「口密」、どんな心構えで接するかを「意密」とします。 ここで医王寺さんご夫婦の、たいへんな被害に遭いながらも屈託のない明るい笑顔と声で応じて頂いたことを思い起こします。 これから先、被災地では支援する側も、支援を受ける側も、お互いに明るい笑顔、明るい声を交わし合うことが肝要と思います。

「無財の七施」を心掛けよう

大乗仏教では、修行者が心がけるべき六つの悟りへの道筋として、次の「六波羅蜜」を大事にしてまいりました。 一、布施波羅蜜 二、持戒波羅蜜 三、忍辱波羅蜜 四、精進波羅蜜 五、禅定波羅蜜 六、般若波羅蜜

その最初の「布施波羅蜜」(施しを実施すること)は、僧侶でなくとも誰にでもできる修行と言えます。 「布施波羅蜜」を先ほどの「無相の三密行」として、日常生活の中で実践するとき、その具体的な手立てを表すのが、次の「無財の七施」と言えるでしょう。

一、眼施(げんせ)…優しい思いやりの目で接すること。 二、和顔施(わがんせ)…穏やかで優しい表情で接すること。 三、言辞施(ごんじせ)…優しい温かい言葉で接すること。 四、身施(しんせ)…身体で出来る奉仕。 五、心施(しんせ)…思いやりの心を込めて人と接すること。 六、床座施(しょうざせ)…座席を譲ること。 七、房舎施(ぼうしゃせ)…家に人をお迎えして温かくもてなすこと。この「無財の七施」は、今回の震災に当たり、人々がお互いに心得るべき大切な事柄だと思います。

震災復興を心の再生に繋げよう

被災された方々は大変な状況の中におられますが、その様子を周囲で見守る人達の中にも、日々様々な情報に接する中で緊張し、多かれ少なかれ心的外傷を被り、或いは「何かをしなければならない」といった焦慮に駆られる方が少なくないと思います。 そういう方は前回「お参りに集中する心構え」でお伝えしたように、ゆったりしたテンポで呼吸を調えながら、「南無皇円大菩薩」とゆっくり唱えてみてください。

遠くにおられる方は無理をせず、まず日々の暮らしの中で、先程の「無財の七施」を実践して頂きたいと思います。 その上で、無理のない浄財で、アルティックの支援活動を応援して頂きたいと思います。

「一切衆生 悉有仏性」という言葉があります。全ての生きとし生けるものは、悉く仏様の種(仏の性質)を宿すという、人の善性を高らかに宣言する言葉と言えます。 私たちはこの言葉を胸に、長い道程の復興プロセスを一つの仏道修行として、共に歩んで行きたいと願っております。合掌




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