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2021年04月09日大日乃光第2303号 貫主権大僧正様御親教
「十善戒」を前向きに実践して、一人びとりが個性の花を咲かせよう 

遺伝子の多様性の役割
 
今年は全国的に桜の開花が早いようです。南大門の周囲など蓮華院の境内や奥之院、とりわけ御廟でも、お彼岸を過ぎた頃に綺麗に咲き誇りました。本誌が皆さんのお手元に届く頃には、既に瑞々しい葉桜になっていることと思います。
 
コロナ禍が続く中、特に首都圏では感染症が再び拡大しないように飲食を伴う花見を避け、互いの距離に気を配りながらも、桜を愛でずにはいられないのが日本人の心情として自然な事ではないかと思っております。
 
今、新型コロナウイルスの変異株について盛んに取り沙汰されていますが、桜の場合も遺伝子の違いで、山桜や江戸彼岸、大島桜や、最近よく耳にする静岡県発祥の河津桜など、どれも個性的で多種多様です。
 
そんな中で、私達が「サクラ」と聞いて最も心に思い描く、入学式などで咲いている桜は、その八十パーセントが染井吉野(ソメイヨシノ)という品種だそうです。
 
染井吉野は見栄えが良く、花も大きいので江戸時代の末頃から一気に日本全国に広まりました。その染井吉野は全てが同じ遺伝子を持ち、全国各地で一斉に花を咲かせてくれるのだそうです。それはそれで素晴らしい事です。その反面、病気にかかる時にも一斉に同じ病気にかかってしまうのだそうです。
 
私達人類は、遺伝子の変異による多種多様な個性によって、これまで生き延びて来ました。新型コロナウイルスによる症状に差異があるのも多様性の結果であり、もし全人類が染井吉野のように単一種のクローンであれば、今頃は滅亡しているかもしれません。実際に私達は有史以前から、数えきれないほどの滅亡の危機を多様性によって乗り越えて来たのです。
 
遺伝子の多様性を、社会的な個性の多様性に置き換えてみれば、同じような性格で、同じような個性を持つ人だけが集まると、一見まとまりは良くなりそうですが、外から大きな力が働いてくると意外にもろい集団になるかもしれません。
 
「人それぞれに花あり」と言う時、その人の特性や個性が輝く様を、その人の良き花というたとえで使います。現代は「個性尊重の時代」とも言われ、その意味では、全く同じ特性を持つ染井吉野を賞(め)でながらも、それぞれに特色ある個性的な桜も大切にする時代という事になりそうです。
 
我欲ではない真の個性が輝く
 
その一方、多くの小学校や中学校、高校、更には様々な職場では制服が定められています。この制服の着用は、個性尊重とは一見、相反することのように見受けられます。
 
これは仕事の内容や職種によっては、個性的であってはならない仕事、例えば警察官や消防士のように公に奉仕し、社会の秩序を保つための仕事の場合には、制服は無くてはならないものでしょう。
 
その他にも数多くの制服があります。私達僧侶が修行道場で身にまとう、決められた袈裟や衣などの僧衣は、個性を削ぎ落とすための修行にふさわしい服装と言えるでしょう。
 
ここではまさに、自分の個性を殺し、我儘な我欲を抑え、大いなる佛様の世界に身を委ねるために身につける衣なのです。そして、生半可な個性を超えて身についた立ち居振る舞いは清々しく、爽やかな印象を周りに与えるに違いありません。
 
僧侶の修行だけではなく、全ての仕事が単に生活の糧を得るためだけでなく、そこに日々の工夫と「職場は人格を高める道場」との覚悟さえあれば、表面的な個々の個性を超えた、もっと確かな、更に意味のある徳性まで高められた真の個性になると思うのです。
 
その意味では、自分を鍛えることで真の個性が輝き出すのです。それとは逆に、何もしないままの個性は本当の個性ではなく、単なる我欲に過ぎないのかもしれません。
 
規則も考え方次第で個性になる
 
この個性を奪うように見える制服や、職場の約束事は、前号の本誌でお伝えした、菩薩の修行としての「六波羅蜜」の内の二番目の「持戒波羅蜜」に相当します。
 
「持戒」とは、自らに『それでいいのか?』と〝戒め〟を振り向け、しっかりとそれを保つのが、本来の意味合いです。そもそも他の人から「これをしてはならない」と言われて、はじめてそれを守るというものではないのです。
 
ですから制服を着るのも自らの意志で着用するべきで、職場で決められた約束事を守るのも、自分自身の意志で守るべきものなのです。もっとも、小中学生が制服を着る時は、そこまでは思い至らないでしょうが…。しかし無意識に着ていても、周りから「この子は○○校の生徒」と見られる事によって、いずれ本人も○○校の生徒らしくなるというものです。
 
この「持戒」に即して言えば、例えば「十分前には職場に着くようにしよう」と自ら戒めを決めたとします。するとそれを守る事は、人に言われた約束事だからではなく、自分自身で決めた事を自らの意志で守る事になり、その人なりの個性的な生き方を方向付けるものとなるわけです。
 
反対に「職場の業務規定や就業規則さえ守っていればよし」と考える方が、むしろ自ら個性的ではない生き方を選ぶことになるのです。
 
「十善戒」を生き方の次元に高める
 
ところで「戒」として、私達が『在家勤行次第』でお参りの時にお唱えしているのは、次の「十善戒」です。
 
①不殺生…みだりに生き物を殺さない
②不偸盗…盗みを働かない
③不邪淫…邪な男女の付き合いをしない
④不妄語…うそ偽りを言わない
⑤不綺語…不必要に飾った事を言わない
⑥不悪口…人の悪口を言わない
⑦不両舌…悪しき二枚舌を使わない
⑧不慳貪…貪りの心を起こさない
⑨不瞋恚…不必要な怒りの心を起こさない
⑩不邪見…邪な曲がった見方をしない
 
これを前号でお伝えした真言密教の「三密」の修行に当てはめてみると、①~③は私たちの身体で行う行動についての戒め、即ち【身密】であり、④~⑦は言動についての戒めを説く【口密】であり、そして、⑧~⑩は心の在り方についての戒め、つまり【意密】に相当します。
 
ところでなぜ、これらの戒めを〝十戒〟と言わずに〝十善戒〟と言うのかと申しますと、以下に示すように、単なる戒めには終わらない教えを表しているからです。
 
①の不殺生戒は単に「生き物を殺さないこと」ではなく、様々な形でご縁のある命を「愛おしみ、大切にしていこう」と積極的に、前向きに受け取めて、生活の中で実践する事なのです。ですからこの戒めは、単なる約束事や決まり事の範囲を超えて、「生き方」の次元にまで高められる教えなのです。
 
②不偸盗戒の「盗みを働かないこと」も、単に他人のものを盗まないだけにとどまらず、さらに一歩進めて、自分の財や知識、或いは体で出来る事などを他の人に奉仕していくという、つまりの「布施」の立場に立つように、発想を大転換する教えなのです。
 
③の不邪淫戒も、男女の違いを乗り超えて、お互いが積極的に活かし合い、助け合うことで戒の意味が深まり、更に良い人間関係が始まるのです。
 
戒を積極的に前向きに考える
 
ここまでが私達の身体を使った行動についての戒めです。
 
次の④不妄語から⑦の不両舌までが言動についての戒めですが、「十善戒」の内の四つと一番多いのは、人には言葉遣いによる過ちが多いからとも考えられますし、「言葉の使い方を変える事で、人は変わり得る」という事でもあります。
 
④の不妄語戒は「妄語をしない」「嘘を言わない」という事ですが、ここでも「~しない」という単なる禁止ではなく、「相手を喜ばせる、思いやりのある言葉で励まして行こう」とする、前向きに良い意味合いに捉え直して積極的に実践して行こうという教えなのです。
 
昔の大阪では、丁稚さんが一人前になったかどうかを、「相手が『おだてられている』と気付かないような〝おべっか〟が言えるようになったかどうか」で見極めるというのがあったそうです。
 
これは⑤の不綺語戒とも関連します。
相手が気持ち良く感じ、不愉快な気持ちにならず、実害も無いなら、これは妄語や綺語、悪口、両舌とはならない、言葉による「布施」という事が出来ます。
 
このように言葉によって周りを和やかにし、時には相手に勇気を与え、さらには人を励ますのも、言葉によるところ、大なるものがあります。
 
「二枚舌」が良い意味にもなる?
 
私の恩師に、数多くの人達の仲人さんを務めた方がおられました。この方の話を聞いていると、決して人の悪口を言われません。それどころか、必ず様々な人の良い所を見つけて誉めておられました。
 
例えば⑦の不両舌戒の、この「二枚舌」は、使い方次第で人と人を喧嘩させる事も出来ますが、反対に先の恩師のように、互いの長所を上手に伝えながら、その二人を結婚にまで導いていく事も出来るわけです。後者は良い意味での「二枚舌」とも言えるでしょう。
 
このように「十善戒」を、ただ与えられた決まり事や命令、規則として受け止めるのではなく、前向きに積極的に受け止めて行くことが大切です。そしてもっと自分の個性を発揮して、生活の中で自分らしく実践していくことが、「十善戒」の説く本来の教えなのです。
 
良い言葉が良い生き方へと導く
 
「十善戒」には身体に関する戒めが三つ、言動に関する戒めが四つ、そして心に関する戒めが三つあります。(心に関する⑧不慳貪戒⑨不瞋恚戒⑩不邪見戒については、次回以降でお伝え致します)
 
言動に関する戒めの中で、どれか一つか二つ、自分の得意な分野から、自分にも出来そうな所から始めてみましょう。その時「相手を、周りの人を喜ばせよう」という思いを持って接し、話せば、必ずや相手に伝わるはずです。
 
これを続ける事によって、これまでと違う生き方に変わり、それが良き個性になっていくに違いありません。合掌




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