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大日乃光






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2022年03月22日大日乃光第2333号
四十二年目の桃の節句に新たな一歩を踏み出すアルティック

信者の皆さん、ようこそお参りでした。
 
今日、三月三日は雛祭りです。五節句の一つで「桃の節句」とも呼ばれています。日本では江戸時代から雛人形を飾る現在の様式が定着し、女子の健やかな成長を祈る年中行事の一つになっています。
 
もう我が家では雛人形を飾る事もなくなりましたが、お陰様で三人の娘達は健やかに成長し、合わせて八人の孫達を嫁ぎ先で育てています。皆、楽しい事も困難な事も経験しつつ、今日はそれぞれに思いの籠った雛祭りの団欒を囲んでいる事でしょう。
 
皆さん方のお宅は如何でしょうか?
近年は昔ながらの伝統的な行事、お祭りなどが次第に薄らいできて、あまり出来ていない様に感じるのは私だけでしょうか?
 
四十二年の支援の歴史を振り返る
 
さて、この三月三日は蓮華院にとっても、とても大切な日付であります。今から四十二年前の三月三日、先代真如大僧正様が、この法座から「同胞援助」の名の元にカンボジア難民支援の募金を呼びかけられた、まさにその日なのであります。
 
それは同時に、アルティック(ARTIC=認定NPO法人れんげ国際ボランティア会)が誕生して、四十二歳を迎えたという事でもあります。振り返れば私の人生にとっても、とても大きな出来事でありました。
 
その日以来、カンボジア難民支援に始まり、スリランカへの支援活動に従事し、今は平野喜幸君を中心に、日本財団と共にミャンマーでの学校建設支援事業に邁進しています。
 
そして昨年・一昨年には、皆さんが納めている税金を、国の予算として活用する形での支援事業に初めて着手しました。これは外務省による国際協力活動の一環で、「ODA」(政府開発援助)と言います。
 
一九五〇年(昭和二十五年)にアジア太平洋地域の開発途上国への社会経済的発展を支援する協力機構「コロンボ・プラン」が、現在のスリランカで設立されました。
 
日本はまだ国自体が貧しかった戦後復興のさ中でありましたが、昭和二十九年十月六日にはこのコロンボ・プランに加盟し、国際協力援助国への参加を果たしました。この事は日本におけるODAの嚆矢と言われ、十月六日は「国際協力の日」と定められています。
 
人々の意識を変えた震災支援
 
アルティックでは長年、国際協力活動を続けて来ましたが、平成七年の阪神・淡路大震災をきっかけに、国内での災害ボランティア活動にも従事するようになりました。
 
最大震度七の大地震により、関西の主要都市圏で六千人以上の方が亡くなり、負傷者は四万人以上に達しました。また約二十五万戸の家屋が全半壊となり、ピーク時には三十万人以上もの避難生活者が発生しました。
 
それまで国内では市民活動家が様々な「ボランティア」活動を行ってきましたが、ちょうど冬休み中の学生達も加わって、従来の市民運動とは無縁の人々によるボランティア団体が各避難所に生まれ、自発的な活動が始まりましたので、平成七年は「ボランティア元年」と呼ばれるようになりました。
 
こうして、様々な非営利目的の奉仕活動を行う団体が沢山出来たのを受けて、平成十年には特定非営利活動促進法(NPO法)が成立しました。暫くして、アルティックもNPO法人格を取得しました。
 
まさにこの時から、見ず知らずの他人の事を自分の事のように助け合おうとする精神が国民的な運動となり、平成二十三年の東日本大震災や、二十八年の熊本震災をはじめ、様々な自然災害の際に発揮されたボランティア活動の発端となったのです。
 
活動資金から辿る活動の足跡
 
今思い返せば、平成七年と言えば、本院の五重塔建立の二年前に当たります。既に原木丸太の製材から、各部材の加工を始めていた頃です。
 
私自身はこの震災の規模から、支援活動を本格的に始めたら、一体どれほどの費用が必要になるか分からないという危惧もありました。その上で、たとえ五重塔の建立が何年か遅れても構わないので、是非これは実行すべきであるという一つの決断を下しました。御本尊皇円大菩薩様の御指示による決断でした。
 
すると全日本佛教会や全国社会福祉協議会等、様々な団体からも補助金を頂いて、活動資金に充てる事が出来るようになりました。
 
そういう中で震災支援の活動資金は、最終的におよそ三分の一(約二千万円)が信者の皆さん方の浄財による緊急募金によるものでありました。誠に尊く、有難い事であります。加えて、趣旨に賛同して頂いた色んな団体からも資金をご提供頂きました。
 
初めてのODAへの名乗り
 
その頃、政府主導による国際協力では調査が不十分であったり、支援先の政府に一任される事が多く、インフラや建物などのハード面に終始して、それが人々にどう使われているかといった視点からは、あまり考えられていませんでした。
 
一方で、アルティックの様な民間団体が沢山生まれ、様々な活動をするようになっていました。
 
その中の一つが当会にもご縁の深いシャンティ国際ボランティア会(SVA)です。最初は曹洞宗ボランティア会として始まり、今では公益社団法人となっています。
 
他にも沢山の団体が世界を舞台に活動を広げる中で、政府のODAの手法について、疑問が寄せられるようになりました。
 
支援先の住民目線に合わせていないのではないか等の提案をたくさん受けて、外務省と当時「国際ボランティア貯金」のあった郵政省が、色んな団体を審査して支援をするという試みが始まりました。
 
アルティックも十五、六年程前にチベット難民居留区への家屋改修事業(約二百十軒分)で三年続けて資金を受けました。そして今回、外務省のODAに「日本NGO連携無償資金協力」(以下、N連と省略)という予算があり、初めてそれに名乗りを挙げたのです。
 
二十年来のチベット支援の賜
 
このN連による事業で、初めて国が公認した、税金を使った支援活動に進んだわけです。これはアルティックにとって、画期的で歴史的な出来事であります。それはちょうどアルティック創立四十周年の節目の年でありました。
 
この事業に当たり、準教師の伊藤祐真さんには、抗癌剤治療中にも関わらず皇円大菩薩様の御加護に身を任せ、インドの八ヶ所の地域(その殆どはチベット難民の居留地域)を対象に尽力して頂いております。
 
伊藤さんは専門的な知識と豊富な経験を元に、コロナ禍の中を病身を賭して、直接現地にも赴いて、公衆衛生環境の改善のために、上下水道施設を拡充し、水路を造り、トイレを造るなどの支援活動に邁進されました。
 
これは信者の皆さん方の浄財により、二十年以上に亘り、チベット難民への支援活動を続けて来た大きな賜なのであります。
 
他にもチベット人への奨学金を続けている団体もあり、中国によるチベットの人権侵害に対して声を挙げている団体もありますが、具体的に難民支援を二十年以上も続けている団体は国内にアルティックしかないのです。
 
歴史的な名演説に賛同
 
そんな中、今回の二月二十四日に始まるロシアによるウクライナ侵攻に対し、殆どの国々が武力による一方的な現状変更に一斉に非難の声を挙げ、世界の国々が経済制裁など、様々な政策を実行しています。
 
さらに、世界中から数千という志願者が、義勇兵としてウクライナ政府の呼び掛けに応えようとしています。国内からも、五十名の元自衛官の方を含む七十名の方が名乗りを挙げました。(その後、日本では後方支援の人材募集に変更されました)
 
それより少し前、ウクライナ東部のドネツク州とルガンスク州へのロシアによる一方的な独立承認に対し、二月二十一日に国連で緊急会合が開かれ、ケニアの国連大使が次のような演説をしました。
 
「この状況は私達の歴史と重なる。ほとんどのアフリカの国々は、帝国の終焉によって誕生した。私達の国境線は遠い植民地の本国で勝手に引かれたものだ。
 
その国境線の先には深い絆を持つ同胞達が暮らしている。しかし民族や人種、宗教の同質性に基づいて建国していたら、この先何十年後も血生臭い戦争を繰り返していただろう。
 
しかし私達はその道を選ばず、既に引かれた国境線を受け入れ、過去に囚われずに、平和の内に築かれる偉大な未来に期待する事にした。私達は新たな支配や抑圧に再び陥らない方法で、滅びた帝国の残り火から私達の国を甦らせなければならない。
 
私達はいかなる理由であれ、民族統一主義や拡張主義を拒む。私達はドネツクとルガンスクの独立国家としての承認に重大な懸念と反対を表明する。また安保理主要国を含む強大な国家が、国際法を軽視するここ数十年の傾向を強く非難する。
 
多国間主義は今夜、死の淵にある。全ての加盟国は多国間主義を守る規範の元に結集し、関係当事者が平和的手段で問題解決に取り組むよう求めるべきだ。
 
最後にウクライナの国際的に認められた国境と領土的一体性が尊重される事を求める」
以上は抄録ですが、歴史に残る名演説だと思います。
 
今、私達にも出来る一歩を
 
こうした状況の中にあって、私達には何が出来るでしょうか。戦争による被害や難民の情報を聞く度に心が傷み、日々の御祈祷の中で平和の実現を祈り続けております。
 
そんな中、ウクライナ大使館が募金を始め、今続々と善意の募金が集まっているそうです。
ここにアルティックからも、善意の募金を呼びかける事に致しました。
 
四十二年目に、設立以来初めて佛教国以外の地域に対する活動へと、一歩踏み出します。
活動と言っても、今はただ募金をして頂くというだけです。
 
戦争が終わった後も、ウクライナの復興には大変な困難が続くと思われます。それこそ子供からお年寄りまで様々な人が今苦境に喘いでいます。
 
そういう中で、大した力にはならないかも知れませんが、どんな形であれ、ほんの少しでも何か出来る事はないかという思いで、人類の一員として、同じ地球に生きる一人として、募金をして頂ければ有難いと思っております。
 
今日はこの法座から、四十二年目の募金の呼びかけでありました。合掌




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