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大日乃光






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2022年04月11日大日乃光第2335号
悩み苦しみに寄り添いながら願いの花を咲かせましょう

「怨親平等」の犠牲者追悼
 
つい先日までは余寒の中で春彼岸供養を修しましたが、こちら九州では週末から一気に桜の開花期を迎え、小鳥達も盛んに囀り、春の訪れを告げています。全国的にはまだ寒暖が安定しませんが、信者の皆さんが健康に過ごされますよう念じております。
 
さて、これを執筆している最中にも、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻のニュースが流れています。本誌が皆さんのお手元に届く頃には事態が好転していますようにと願うばかりです。
 
毎朝の信者の皆さん達への御祈祷の際には、元寇の際の宗祖叡尊上人の「怨親平等」の故事に倣って、この戦争の全ての犠牲者への追悼を祈り続けております。
 
ただ思い煩うばかりではなく、自分に何か出来る事はないかと思われる方は、どうかアルティック(ARTIC/認定NPO法人れんげ国際ボランティア会)の「ウクライナ人道支援緊急募金」にご協力をお願いします。苦難の人々のために皆さんと共に行動し、一刻も早い事態の終息を祈っております。
 
 
苦悩や挫折から佛教が生まれた
 
さて、前号では新入学や進学、さらには新社会人に対する周囲からの支えのあり方についてお伝えしましたが、残念ながら受験に失敗したり、就職試験で希望する会社に入れなかった人もおられる事でしょう。
 
今日は、そんな方に挫折や失敗から何を学び、どのように立ち上がるべきかを、私の経験を交えて少しお話ししたいと思います。
 
人生には様々な不都合や不幸な出来事が何回もあります。時には大きな挫折を味わうことも一度や二度ではありません。
 
しかし人にとって、特に若い時期に挫折を経験する事は、むしろ良い機縁になるとも言えます。なぜならその挫折が、その人に強い意志と前進する勇気を与えてくれるからです。
 
佛教の開祖、お釈迦様もお生まれになってすぐに、お母様(摩耶夫人)を亡くしてしまわれました。この事が、その後のお釈迦様に人生を深く考える心の在り方を教えました。
 
この人生を深く思索する事が、後に多くの人々を救う〝佛教〟というものを生み出す原動力となったのです。
 
吃音症に苦悩した少年時代
 
ここで私の若い頃のささやかな苦しみと挫折のお話を少し致します。
小学校低学年の頃、ガキ大将と一緒に遊んでいて、そのガキ大将がひどいドモリ(吃音症)の子供でした。何気なくそのドモリの真似をしていたら、まさにバチが当たったのでしょう。私も軽いドモリになりました。
 
その後、家族ともども佐賀に移住した事から、生活環境の変化に心が不安定になり、ドモリがかなりひどくなりました。例えば家(お寺)に帰った時の「ただいま」と言う言葉さえも出ないほどでした。
 
また一人でバスで帰る時には、切符を買うための「田手まで子供一枚」が言えず、次のバス停までの分を買ってしまったり、一つ手前のバス停で降りて歩いて帰った事も一度や二度ではありませんでした。
 
一人でトボトボと帰る道すがら、「なんて惨めなんだ!これからこんな人生を歩まなければならないのか?」と幼いながらも人生を悲観しながら歩いて帰ったのを、今でもハッキリ憶えています。
 
思春期になっても、密かに心を寄せていた同級生の女の子に声一つかけることも出来ず、挨拶も出来ない暗い青春時代を送っていました。
 
転機となった校内弁論大会
 
「このままでは自分の人生は本当にダメになる…」と悲観していた頃、生徒会の主催で校内弁論大会が開催されるという話を耳にしたのです。
 
「よし!これだ!恥ずかしがるからダメなんだ!全校生徒の前で、全ての先生の前で、このドモリの恥を晒してやろう!そうすれば少しは恥ずかしくなくなるかもしれない!」
と考えたのです。
 
ホームルームの時、クラス委員が「誰か弁論大会に出る人はいませんか?」と言った直後、私は意を決してサッと手を挙げました。周りのクラスメートから、白けた雰囲気が一瞬広がりました。しかし私以外に手を挙げる人はいませんでした。
 
こうして挨拶もろくに出来ない対人恐怖症のような私が、二週間後の弁論大会に出場する事になったのです。
 
それからというもの、二、三冊の本を読み漁りました。今でも特に印象に残っているのは岩波新書の『仏教』(渡辺照宏著)という本で、何度も繰り返し読みました。その上でスピーチ原稿を書き、それを経本のように折りたたみ、本堂で何度も何度も声に出して練習しました。
 
そして、ついに弁論大会のその時が迫ってきました。自分の順番が近づく度に心臓の鼓動が速くなり、あと三人、二人となった時には心臓が口から飛び出そうな緊張感に見舞われました。
 
とうとう自分の順番になった時、どのようにしてステージに上がり、どのように弁じて降りてきたのか、頭の中が真っ白になって何も憶えていませんでした。高校一年の三学期でしたが、各学年から十一人、合計三十三人の弁論大会でした。
 
いよいよ順位の発表が始まると、全く期待はしていませんでしたが、なんと全校で二位になったのでした。
 
自ら試練を課した青年会議所出向
 
この日を境に積極的に苦難に立ち向かう心構えの種が、私の心の中に確実に植えられたと思っています。自ら苦難に立ち向かうこの心構えが、現在の私を形作っていると言っても過言ではありません。
 
ドモリはそれ以後も完治した訳ではありませんが、その日を境に私の心構えが大きく変わったのです。
 
二十代の中頃から蓮華院の貫主を拝命するまでの間、私はある方の勧めで青年会議所に入会しました。その間、全国組織である日本青年会議所に六回ほど出向しました。
 
最初の三年間は研修委員会に属していました。この頃は毎回著名な講師の方が講演されて、その後質疑応答がありました。私はこの時、必ず一番に手を挙げて質問する事を自分に課したのです。その結果、講演を真剣に聴く心構えが出来ました。
 
ある時は、三千人の聴衆の中で一番に手を挙げて、大きな声で質問をしました。さすがに手を挙げて立ち上がった瞬間、極度の緊張の中で膝がガクガク震えてくるのが自分でもはっきり分かるほどでした。
 
しかし毎回毎回手を挙げて質問する内に、上層部の人に顔を憶えて頂き、時には講演者の控え室まで質問に伺った事もありました。
 
それでも完全に言語障害がなくなったわけではありませんでした。しかしこのような習慣を続ける内に、人前であがらない心構えと、冷静に対話する力が身について行ったのです。
この事は、私のその後の人生に大きな自信を与えてくれました。
 
人は欠点をバネに成長する
 
普通は大勢の前で手を挙げて質問をしたり、講師の部屋を訪ねたりするのはなかなか難しい事かもしれません。しかし私には、自分の言語障害を克服する目標を達成したいという特別な強い気持ちがあったからこそ、これらを実行する事が出来たのかもしれません。
 
人は自分の持っている欠点をバネに変えて活かす時、普段なら決して出来ない事が出来るようになるのだと思います。
 
今現在挫折の中にいる人は、その挫折感をしっかり受けとめて、そこから踏み出す勇気を持って一歩進んでみてください。まさに今、そこから一歩を踏み出すのです。
 
その意味でも、挫折は早ければ早い方が良いと先にお伝えしたのです。
 
挫折を機に大きく成長した長女
 
もう一つ、体験談をお話しします。それは私の長女が高校三年の時、第一志望の大学入試の時の話です。
 
彼女は先生から太鼓判を押されていて、よほど自信があったのか、滑り止めを受けていませんでした。ところがどうした訳か、その第一志望の入試に落ちてしまったのです。
 
彼女から報告を受けると、私は、「そうか!よし分かった。これから一年間浪人しなさい。しかし、落ちた大学より更に上の大学を目指しなさい。たとえば振られた男に未練など残さず、もっといい男にぶつかって行くようなもんだ!!」と言ったことをハッキリと憶えています。
 
その後、彼女はもの凄い集中力を発揮し、一年後には無事に志望の大学に合格しました。
この浪人生活で、彼女は人間的に一回りも二回りも大きく成長したように感じました。挫折や苦難によって打ちひしがれる人もいますが、意思の力でそこから雄々しく立ち上がる人もいます。
 
天変地異による自然災害の多い私達日本人の遺伝子には、この苦難に立ち向かう魂がしっかりと刻み込まれていると確信しています。
 
苦難の底から御心に向き合おう
 
信者の皆さん、どうか周りに苦難に打ちひしがれている人が居られたら、静かに見守り、時には励ましてあげてください。そして時にはご自身の体験を伝えてあげてください。
 
願いを叶えるために、目標に向かって一心に心を向けて励んだ経験は、その人の人生に大きな自信を与えてくれます。
 
それと同じように、信心によって願いを叶えるためには、御本尊皇円大菩薩様の御心に適う清く強い思いと努力で、佛様にしっかりと向き合わなければなりません。一度、佛様にしっかりと向き合う経験をすると、人生に対しても自信が芽生えます。
 
蓮華院では本院でも奥之院でも霊園でも、これから様々な花が咲き誇る事でしょう。それと同じように、皆さん方が願いの花を一つまた一つと花咲かせて行かれますようにと念じております。
 
まさに『念ずれば花ひらく』です。合掌




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