1997年11月20日第13号
幸福ニュース
日常生活と仏道修行
(求聞持法行中雑感2)
<日々の生活に見る現実と真実>

真言宗の教えを日常生活のあり方の中で説く時、「即時而真」(そくじにしん)という教えがあります。「即時而真」とは、すべての人間の営みは、時々刻々の一挙手一投足の中に真実があるということです。そしてまたこの真実は日々の生活の中にしか存在しないという考え方です。

もっと詳しく説明しますと、即時の時とは、私達の日常生活そのものです。朝起きて、顔を洗い、朝食を作り、食べる。学校や会社に出かけ、そこで勉強し、仕事をします。

このような平凡な生活の一コマーコマの姿を事(じ)と言います。而真の真とは生々流転しても変わらない本性、その人をその人たらしめている命の根源のことです。

前号でお伝えした月を写す水はガラスのコップと樽というように容器が違っても水の本性は変わることなく、同じように満月の光を写すことができます。このように月を写す働きが真であります。

それに対して水の表面に写る様々な姿が事であります。波と水の間係は、水があって始めて波も出来るし、水平にもなります。その水面の様々なものを写します。水が真とすれば波の状態も水平の状態も共に事であり、そこに写るすべてが事であるという関係です。このような関係を即事而真と言うのです。

<先徳が説く生活と修行>

江戸時代の僧、法住法師の著された『秘密安心又略』(ひみつあんじんゆうりやく)には「生活のために種々ななりわいに忙殺されている者は、どうすれば即身成仏への道を歩むことができるのですか?」とう問いに答えて、

「様々な職業を通じて、その仕事に励む事が即ち、形を越えた修行である。職人は様々な道具を使って色々なものを作る。このことが仏道修行である。また、農民は種まきや鍬 仕事などの農作業そのものが悟りへの道なのである。

・・・・・略・・・・・

このようにそれぞれの仕事に無心に精を出すならば、その行ないはおのずから仏道に叶うものである。稲刈り作業がそのまま光明真言を唱える功徳と同じ功徳であり、麦の実をまくことも大日如来の真言を唱えるのと同じ功徳となるのである。このような仕事はそれが生計を立てるためのものであっても、その功徳は何ら変わるものではない。

ただ怠りの心やいいかげんな心がけで仕事をするのであれば、丁寧にまかなかった種からの発芽が少ないように充分な功徳とはならず、仕事がそのまま修行とはならないのでよくよく仕事に励むべきである。」(意訳)と述べられています。

また、同じく江戸時代の禅僧鈴木正三(すずきしようざん)も法住と同じようなことを「万民徳用」で述べています。

その中で、正三は、「農民や商人にとっては、仕事の合間を見つけて坐禅や読経のような修行をすることが仏道修行ではなく、自分の本来の職業に励み、職業を通じて社会に貢献することこそが修行であり、功徳をつむことである。」と述べています。

<あなたにとっての修行とは?>

昭和五十一年に私は高野山大学を卒業して蓮華院に帰って来ました。それから三年近くは奥之院の山林の伐採や植林などの仕事をしていました。その頃のことでした。少し早めに作業をきりあげて、奥之院のふもとの山あいにある滝場を見つけ、そこで水行をしていました。

行を始めて数日たったある日、是信大僧正様から「ちょっと来い」と言われ、二階の居間に上がって行きますと、「今のお前にとっての本来の修行は奥之院での作業だ。それを自分の都合で切り上げて、行のまねごとをしているようだが、そんな行は即刻やめてしまえ!」といつになく厳しい口調で言い渡されたのです。

その時は、大僧正様の真意を理解することができませんでした。しかしここまで読んで来られた方には、なぜ私が叱られたかもうお解りのことと思います。

<今一度生活を問い直す>

三密の修行とは、何も護摩を焚いたり行法を修すことだけでありません。このような修行は「有相の三密行」と言って形に表われた修行であります。もっと大切な修行は、それぞれの人が自分に与えられた仕事に、全身全霊を傾けて無心に勤めるこのことを「無相の三密行」と言います。

無相の三密とは、形にはまった一定の形式によって行じるのではなく、心を「即事而真」の教えに従って日々の日常生活の中で実行することなのです。あくまでこのことを忘れないために日々のお参りが必要なのであって、お参りするために日々の仕事をするのではないのです。

今の私にとっては、求聞持法を行のための行とならないようしなければなりません。そして、行そのものが僧侶としての生活の一部として、気負わず淡々と行じる心づもりを忘れてはならないと思っております。

その事が三密行の一つである求聞持法を無相の三密に高めて行く心構えであると思っております。どうか皆さんも日々の仕事を惰性に流されることなく日々新たな気持で励んで下さい。 合掌 (平成七年九月二十七日求聞持堂にて)

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